前回に引き続き、企業価値の算定方法について解説します。時価純資産法、DCF法、類似会社比準法、中小企業庁方式についてより詳しく見ていきましょう。

代表的な4つの算定方法の概要を知る

前回の続きです。ここでは、算定方法についてどのような種類があるかを具体的に紹介していきます。

 

●時価純資産法

企業が保有するすべての資産を時価に換算し、そこから負債の時価を差し引いて、正味の資産額を求める方法です。

 

会社保有の資産(有形・無形を問わず)をすべて時価で評価し合計します。そこから負債の時価を差し引いたものが時価純資産価額です。しかし、これだけではこの会社が今後営業することで生み出す利益についての評価がなされていません。

 

そこでこの利益を生む力を『営業権』として評価し、この営業権をプラスした価額が会社売却時の算出方法とされます。この算出方法は比較的簡単に評価額を出せることから、中小企業のM&Aには多く用いられます。モデルケースは書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』の第1章に掲載しているので、関心のある方は読んでみてください。

 

●DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)

将来見込まれる収益(フリー・キャッシュフロー)の現在価値の合計額を「企業価値」と考えて試算し、割引率で割ることによって、現在の企業価値を求める方法です。

 

企業価値を算定するには、一般的に5年間程度の事業計画を作成し、毎年のフリー・キャッシュフローを現在の企業価値に引き直して算出します。6年目以降は5年目のフリー・キャッシュフローが永遠に続くと仮定して、現在の企業価値に換算します。ちなみにこの6年目以降の価値をターミナルバリュー(永続価値)といいます。

 

現在の企業価値に換算するための割引率は、評価する会社で異なり、より高度な専門知識が求められます。割引率が低ければ低いほど評価は高くなります。非上場会社の場合は、優良会社でも割引率は5%程度が下限で、リスクの高い会社では10%超になることがあります。

 

モデルケースを用いて説明します。毎年1000万円のキャッシュフローがあるとして、これを10%の割引率で割り引いていくと、1年目の価値は910万円、2年目は830万円、3年目は750万円、4年目は680万円、5年目は620万円です。6年目以降は1000万円がずっと続くと仮定されます。すると、現在価値は6210万円となります。これらをすべて合算した1億円が企業価値です。

●類似会社比準法

評価しようとする会社と業種・規模等が類似する上場会社の株式市場価額と過去の取引における価額を参考にして、企業価値を求める方法です。

 

この方法は、類似の会社や業種の市場価額を参考にするため、客観性が高く算出も容易な評価方式とされています。しかし会社固有の状況や強みが評価されにくく、比較対象によって評価が大きく変わるデメリットがあります。

 

●中小企業庁方式

平成18年10月に中小企業庁が公表した『事業承継ガイドライン20問20答』のなかで、簡易に自己診断ができる方法として紹介されました。時価純資産法とDCF法の重要項目だけを抽出した算出法で、自社の決算書などを見ながら数値を記入していくと簡単に試算が出ます。

 

ただし、あくまでも目安であり、実際のM&A売却金額とは異なる点には注意が必要です。

価値の算定法を知ることでM&A交渉も有利になる!?

このように、企業価値の算定方法は様々です。企業価値の算定方法を知ることで交渉を有利に運ぶことができる可能性が高まります。

 

たとえば、時価純資産法は現在の資産と負債をもとに判定するため、将来性については加味されません。DCF法は将来の収益を加味して企業価値を判定しますが、そこには恣意性や不確実性が伴います。類似会社比準法はバランスのいい算出法ですが、参考にする類似会社を上手に選ばないと不利になってしまうことがあります。

 

一般的には、大きな資産や設備を持っている会社は時価純資産法が向いているといわれています。また、資産が少なく、将来性が期待できる会社には、DCF法が向いているといわれます。ただ、いずれの方法も完璧というわけにはいきません。ですから、場合によっては、幾つかを併用することも考えられます。

 

最終的な企業価値やのれん代の算定は、ケースバイケースで対応していくことになります。実際にM&Aをしようとしている人は、安く売って損をしないためにも、専門家の力を借りて適正に算出してもらうといいでしょう。

本連載は、2015年9月25日刊行の書籍『後継ぎがいない会社を圧倒的な高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

後継ぎがいない会社を 圧倒的な高値で売る方法

岡本 雄三

幻冬舎メディアコンサルティング

「後継者がいない」「後継者がいても継がせたくない」そう悩む中小企業経営者が増えています。しかし、廃業となると、経営者自身の連帯保証の問題や従業員の生活の保証、取引先への影響などもあるため、なかなか踏み切るのは難…

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