前回は、仲介事業者にも規制がある「民泊新法」に定められた禁止事項を紹介しました。今回は、消防法、固定資産税などについて、未だ残る「民泊新法」の問題点を見ていきます。

民泊新法の制定に合わせて「旅館業法」も見直し予定

なお、民泊新法の制定とあわせて旅館業法の見直しも行われる予定です。最終報告書の中では、以下のような提言がなされています。

 

●旅館とホテルの営業許可を一本化することや許可基準のあり方についての検討

●宿泊拒否の制限規定の見直し

●無許可営業など旅館業法違反に対する罰則をより実効性あるものにする(罰金額の引き上げ等)

●無許可営業者に対する報告徴収や立ち入り調査権限の整備

●旅館業法の許可に当たり、賃貸借契約、管理規約(共同住宅の場合)に反していないことを担保できるような措置を設ける

 

さらに旅館業法以外の法令で行われている既存のホテル・旅館に対する規制の見直しについても、民泊に対する規制の内容・程度とのバランスも踏まえて検討される見通しとなっています。

今後も検討が必要な事項とは?

ここまで、最終報告書から浮かび上がってくる民泊新法の中身について解説してきましたが、議論の余地がある点について触れておきましょう。

 

まず一番大きな問題としては、消防法に関して全く言及されていないことです。そのため、同法が「住居」を前提として適用されることになるのか否かが、現段階では不明確です。もし、消防法で「住居」ではなく「宿所」の基準が適用されることになれば、通常の火災警報器ではなく自動火災報知設備を設定しなければならなくなり、運営者の負担が過度に大きくなるおそれがあります。

 

また、同様に、税務当局が「住居」と「宿所」のいずれの形で取り扱うのかも気になるところです。現状では、「住居」は「宿所」に比べて、土地の固定資産税が非常に低くなっています。それが、「民泊をやるのですか、では住居ではなく宿所と見なして課税します」ということになれば、税金が一気に何倍にも上がるおそれがあるのです(それでは税負担が大きくなることを案じて民泊に取り組む人が少なくなるでしょうから、おそらく「住居」として取り扱われることになるとは思うのですが・・・)。

 

それから、新法では「ホームステイ型」と「家主不在型」という2種類のタイプを設けることが予定されていますが、このように2つに分けることにどれだけの意味があるのかは不明瞭です。「家主不在型」はホストがいないから泊まる側からすれば不安がある、一方、「ホームステイ型」はホストがいるから安心という考えを前提として、前者に対しては管理者を置くことを義務付けるなどより厳しい規制を課しているわけですが、果たしてホストがいるからといって常に安心・安全といえるでしょうか。

 

たとえば、「ホームステイ型」ではパスポートのコピーをホストが管理・保存することになりますが、ホテルや旅館のような情報管理のノウハウも経験もない一般の個人にそこまでの責任を負わせることは荷が重すぎますし、個人情報漏洩のリスクも小さくないように思います。ことにパスポート情報は、非合法なモノや情報の取引が行われているアンダーグラウンドな市場では高い価値が認められているので、犯罪集団などが民泊を運営して、その情報を不正に収集することを企てる危険もないとはいえません。

 

もちろん、「おそらくホームステイ型」民泊のほとんどは、ホスピタリティーに満ちた善意の人たちによって運営されることになるでしょうが、中には何らかの悪意を持っている人もいる可能性は否定できません。「ホームステイ型」は安心・安全という先入観を持つことなく、そうした万が一の場合も想定してトラブルを防ぐための制度設計を検討することも必要ではないでしょうか。

本連載は、2016年12月16日刊行の書籍『民泊ビジネスのリアル』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の法令改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

民泊ビジネスのリアル

民泊ビジネスのリアル

三口 聡之介

幻冬舎メディアコンサルティング

世界中で大ブームとなっている「民泊」。日本でも約4万6000件の物件が民泊用のマッチングサイトに登録されています。民泊が広まっている背景にはシェアリング・エコノミーの流行、人口減少による遊休不動産の増加、訪日旅…

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