新興企業にもユニコーン企業になれるチャンスが・・・
注目したいのは、こうした消費行動の変化にテクノロジーが大きく関与していることだ。インターネットやデジタル化技術など、ひとつひとつのテクノロジーは何年も前から存在しているが、それらが様々なかたちで融合し、産業社会に大きな影響力を持つようなイノベーションを生みだしている。
前回述べた自動車配車サービスのウーバー、スペースをシェアするエアビーアンドビーなど、シェアリングエコノミー型のビジネスは、アマゾンなどが提供するクラウドサービスをプラットフォームとして急速に広がった。
これらのクラウドサービスは、自社で多額のIT投資をしなくても、従量制の低料金でクラウド上のシステムを使うことができる。そのサービスには、膨大なデータを保管するストレージからAIの活用まで、ビジネスに必要な幅広い機能が揃っている。これらを活用すれば、数人でスタートした新興企業でもたちまちユニコーン企業になれるのだ。
たとえば、ウーバーは2009年に生まれた新しいサービスだが、セールスフォースをはじめとするパブリッククラウドの活用により、すでに世界70か国、400の都市に広がっており4、「タクシー業界の破壊者」と呼ばれている。
4. ロイター「ウーバー、20 年に全国でサービス利用可能にしたい=日本法人社長」
http://jp.reuters.com/article/uber-eats-launch-idJPKCN11Y0G0(2016 年11 月1
日にアクセス)
また、3Dプリンタによるモノづくり支援サービスなどは、製造業のあり方を根底から変えてしまう可能性を秘めている。企業の研究開発者でなくても、技術とアイデアさえあれば誰でも自分で設計した製品をインターネットで3Dプリンティングサービス会社に送り、製造できる時代がすでに来ているのだ。
「たったひとりの家電メーカー」として注目されているビーサイズ(Bsize)の八木啓太氏は、開発したLEDデスクライトやワイヤレス充電器が海外のデザイン賞を受賞するなど、実績もあげている5。
5. ライフハッカー「世界が感嘆したニッポンの『ひとりメーカー』。Bsize 八木啓太さ
んのモノ作り魂を聞く」
http://www.lifehacker.jp/2014/07/140702_gum_hakadoru.html(2016 年11 月1
日にアクセス)
さらに、工業製品などの廃材を活用する動きも出てきており、持続可能な循環型社会を推進していくエンジンとしての可能性も注目される。
そこで使われている技術のひとつひとつは、以前からある3D-CADや機械制御技術、材料加工技術の発展形だが、時代の変化に呼応した新たなアイデアとこれらを融合することにより、設計・開発・製造の分野に大きな革新を生みだそうとしている。
3Dプリンタの台頭や1人でスタートするメーカーの出現といった現象が示しているのは、消費者が自分で必要なものを開発・製造するプロシューマー層の出現だ。プロシューマーの経済活動ではメーカー企業を必要としない。今はまだ生まれたての小さな動きだが、そこには企業がモノ造りを支配するという従来の産業構造に対する反乱がある。
個人が新しいものを生みだせる仕組み「PtoP」
ユーザー自らがモノ造りの主役になるという形態は、大手企業が支配する業界ではまだ馴染みの薄いものかもしれないが、すでにITの世界ではかなり前から当たり前になっている。小中学生でも魅力的なアプリケーションプログラムを創り、ユーザーの支持を集めればたちまちソフトウェア開発者、あるいはベンチャーの経営者にもなれる。
大手企業やベンチャーキャピタルの支援を受けなくても、クラウド・ファンディングで賛同者を集めれば資金は手に入るし、ソフトの開発や普及に仲間が必要ならインターネットを通じて協力してもらうこともできる。
システム業界にはPtoP(ピアtoピア)というユーザー同士が直接コミュニケートすることを指す言葉があるが、システムやネットワークが当たり前になったおかげで、このPtoPのコミュニケーションやコラボレーションが今、社会全般に広がりつつあるのだ。
PtoPの新しさは、大企業がビジネスのために構築した仕組みに頼らず、個人が自分たちの価値観・感性・意志で仲間を見つけ、互いに協力し、新しいものを生みだしていけるという点にある。このPtoPこそ、個人が企業主導の経済支配から独立して主権を獲得していく地殻変動の原動力である。