産業界の大変革は「技術の多様化、クロスオーバー」
最後にもうひとつ、産業界で80年代以降に起きた大きな変化は、技術の多様化、技術分野のクロスオーバーだ。それまでの産業は分野ごとに使用する原料や加工技術がほぼ決まっていた。だからひとつの企業がすべてを内製することが競争力を生んだ。ところが80年代以後は、思いがけない分野の技術が突然自分の産業の技術と結びついて大きなイノベーションを興すようになった。
たとえばプラスチック。それまで金属しか使えないとされていた工業製品向けの部品に次々とプラスチック素材が使われ、自動車の軽量化、省エネ化に大きく貢献している。中でもエンジニアリング・プラスチックは、強度や耐熱性、耐摩耗性などの性能を飛躍的に高め、家電製品の歯車や軸受け、自動車のエンジンまわりなどにも使われるようになった。
通信の情報伝送能力に革命を興したグラスファイバーも、通信業界とは何の関係もないガラス業界から生まれた。電気自動車や燃料電池自動車の性能向上でカギになるリチウムイオン電池、燃料電池のコア技術は化学だ。排出ガス低減はプラチナなどの貴金属と化学系技術がカギを握っている。
生き残りに不可欠な、水平型ネットワークの構築と活用
こうした技術の突然の変化は、それまで企業の強みだった一貫体制に風穴をあけてしまう。そのため、業界を超えた水平型ネットワークを構築し、活用することができなければ、企業は生き残ることができない。
つまりこれから訪れるのは、「○○業」「△△屋」といった定義が当てはまらない企業の時代、業界・業種の垣根がない産業社会なのだ。この変化は製造業だけでなく、あらゆる産業で起こりつつある。いや、産業だけではなく、社会全体で生まれつつあると言ったほうがいい。
この新しい社会では、電気を作って売るのは個人でもいいし、メーカーでもいい。旅行者を泊めるのはホテルや旅館でもいいし、個人でもいい。人やモノを運ぶのは交通機関や運送業者でもいいし、ちょうどトラックや倉庫に空きが出たメーカーでもいいし、時間と車があいている個人でもいい。
古い産業の枠組みが通用しないこれからの時代に、社会のニーズに応え、成長していくのは「何屋」でもない企業だ。その中から社会を変えていく新しいパワーが生まれてくるだろう。