今回は、システム投資という観点から日本企業の問題点について見ていきます。※本連載は、シーオス株式会社の代表取締役・松島聡氏の著書、『UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか 』(英治出版)の中から一部を抜粋し、AIやIoTなどテクノロジーの進化によって大変革期を迎えている経済・産業の今とこれからについて解説します。

自社に技術者を置かず、システム開発を進めた日本

もうひとつ、興味深い資料がある。下記のグラフは、1980〜2006年の日本とアメリカのソフトウェアへの投資額構成を、自社開発・外注・パッケージという3つのタイプ別に整理したものだ。これを見ると、アメリカの企業が3つのタイプをバランスよく組み合わせているのに対して、日本の企業が極端に外注に偏っているのがわかる。

 

[図表]外注に頼る日本とバランスが取れたアメリカ

(引用文献)日本銀行ワーキングペーパーシリーズ
「ITと生産性に関する日米比較:マクロ・ミクロ両面からの計量分析」
 
(引用文献)日本銀行ワーキングペーパーシリーズ
「ITと生産性に関する日米比較:マクロ・ミクロ両面からの計量分析」

 

これは何を意味しているのか?

 

アメリカの企業は事業の競争力につながる分野と、ビジネスの仕組みを効率化する部分の両方をシステム化し、前者にはICT技術者を雇用して自社でシステム開発を行い、後者はシステムインテグレータ(SI)に外注するか、リーズナブルなパッケージ製品でまかなうという、バランスのとれたシステム投資を行っている。

 

これに対して日本企業のシステム投資は、ビジネスの仕組みを効率化する部分に極端に偏っている。たとえば従来、部門最適で行っていた業務を全社で統合・標準化し、効率化をはかるといったシステム化だ。こうしたシステムは自社で技術者を抱えて開発しなくても、コンサルティングファームやSIに外注したほうが効果的に構築できる。

 

しかし、自社の競争力の源泉となるようなシステムは、事業部門と一体でなければ創り出すことができない。それはまだ存在しないビジネスモデルやサービスを創造するイノベーションの一環だからだ。

 

アメリカでは多くの企業がこうしたイノベーションを実現するために、金融業界などから優秀な技術者を獲得した。これによって単なる業務効率化のシステムではなく、事業やサービスの競争力・価値を支えるアルゴリズム(システムの根幹となる数学的な仕組み・手順)を生みだすことができるようになった。中にはそこで培った技術でIT事業を興す企業もあるほど、イノベーションに成功した企業のITは高度なものになった。

 

これに対して、日本の企業は人の知恵で競争力を生みだしてきた。かつてはそれで世界との競争に勝ってきたために、ソフトウェアのテクノロジーが育たなかったと言える。しかし、これからの時代に求められるUXビジネスは、そのビジネスモデルやサービスを支える固有の優れたシステムがなければ成立しない。

新しいビジネスモデル構築の鍵は「独自の技術」

先に紹介したように、欧米ではGEやミシュランのような長い歴史を持つ巨大企業であっても、既存のビジネスモデルから脱却し、UXを基準に新たなビジネスモデルを構築している。革新が進んでいるのはまだ事業の一部かもしれないが、すでにニューエコノミーにおけるビジネスモデルのありかたをつかみ、移行をスタートさせているのだ。

 

そこには新たな事業ビジョンや戦略、そのために既存の仕組みを大胆に破壊し、再構築する潔さがある。新たなビジネスモデルを生みだすために欠かせないテクノロジーもしっかり組み込まれている。

 

たとえばGEが航空機関連事業で、エンジン製造と航空機運航最適化サービスを融合させたようなビジネスは、IoTや高度な解析能力を持つ独自システムなしには成り立たない。事業戦略の立案能力だけでなく、ICTの高度な戦略立案能力やコアとなる技術を自社で持っていなければ、こうしたイノベーションを生みだすことは不可能だ。

 

システム開発のほとんどすべてをコンサルティングファームやSIベンダーに依存してきた日本の企業に、ICT活用によってイノベーションを生みだし、新しいビジネスモデルを構築することができるだろうか。

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

UXの時代――IoTとシェアリングは産業をどう変えるのか

松島 聡

英治出版

IoT、人工知能、ビッグデータ、センサー、ロボティクス…テクノロジーの進化と普及は、企業のあり方、個人の働き方を根底から変え、かつてないUX(ユーザーエクスペリエンス)を生み出す―。モノ・空間・仕事・輸送の4大リソース…

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