相続財産のすべてを母親に譲るつもりだったのに…
<事例>
父親を亡くしたEさんは、姉からの提案もあり相続放棄の手続きをしました。相続財産の大半は自宅と預貯金なので、同じ相続人の母親が生活に困らないよう、すべて母親に譲るつもりで、姉と相続放棄の書類に署名捺印したのです。
ところが遺産分割協議が始まる段階になって、大きな間違いを犯したことに気づきました。Eさんと姉が相続放棄すると、父の兄と妹(Eさんの伯父と叔母)に相続権が移行することを知らなかったのです。慌てて伯父と叔母に相続放棄を頼みましたが、応じてくれません。Eさんは自分と姉の相続放棄撤回を求めて、裁判をすることになりました。
場合によっては撤回できる可能性も
相子 もともとお母さんに全部相続させたいと思って間違えただけなんですから、撤回を認めてもらえないのは変ですよ。
北井 相続放棄の手続きを撤回できるかどうかは判断の分かれるところです。法的に「撤回できる」とされているケースは「未成年者の相続人が勝手に手続きをした」「詐欺や脅迫があって手続きした」「後見人が勝手に手続きした」などがあります。
事例のケースはこのどれにも当てはまらないのですが、「場合によっては撤回できるかもしれない」と考えられています。似たようなケースとして「被相続人から多額の借金があると聞かされていたから相続放棄したが、ふたを開けてみたら貸金のほうが多かった」というものがあります。高松高裁ではこのケースについて、1990年に相続放棄の撤回を認めるという判決が下されています。