女性の生活維持を目的とした遺贈は有効
<事例>
既婚者のCさんは単身赴任先で独身女性と知り合い、不倫関係になりました。やがて同棲するようになり、Cさんの収入で女性の生活が成り立つ状況となったので、Cさんは財産の3分の1を女性に遺贈するという遺言書を書きました。Cさんが亡くなり、遺産分割協議が行われましたが、相続人の1人が「公序良俗に反する不倫関係が原因で書かれた遺言書なので無効だ」と訴え、裁判になりました。
相子 うーん、不倫は許せないけど、遺言書に書かれていたらやはり有効なんですか?
北井 実際に裁判所の判断も状況によって異なります。同様のケースについて、1986年に最高裁判所は遺言書を有効と認めています。判断の材料となったのは遺贈の目的でした。違法行為である不倫関係を続けるために遺贈を申し出たのなら無効ですが、女性の生活維持を目的とした遺贈だったので有効と判断されたのです。
ちなみに東京地裁で1983年に不倫相手に全財産を遺贈するという遺言書を無効とする判決が出ています。このケースでは「奥さんや子供たちが住む家を失い、生活できなくなる」ということが重視されました。
遺骨の所有権は誰にあるのか?
<事例>
父親を亡くしたDさんは、夫婦一緒にいられるよう3年前に死没した母親と同じお墓に埋葬してやりたいと考えていました。ところが父親の連れ子であった長男が反対し、本家のお墓に入れてしまいました。長男は「葬儀を取り仕切った自分にその権利がある」と言って譲りません。父親は生前、埋葬場所については明確な意思表示をしておらず、遺言書にも指定はありませんでした。
相子 亡くなったお父さんはたぶん奥さんと一緒のお墓に入りたいと思いますけど、意思表示がなかったのなら、長男の意向に沿って進められるのでしょうか。
北井 遺骨について法律では「物品」あるいは「祭祀道具(宗教行為に使う道具)」と見なすことになっており、誰かに所有権があるものと考えられています。問題は「それが誰なのか」ですが、1989年に最高裁判所が下した判決では「葬儀を主催した人」を遺骨の所有者と認めました。現在もこの考えが主流となっており、喪主=遺骨の所有者と認識されています。ですから、事例のDさんではなく、遺骨をどこに納めるかは長男に権利があると考えるのが一般的です。