前回は、「未成年者の相続」にまつわるトラブル事例について取り上げました。今回は、「遺言執行者」の指定がないために、相続手続きに手間取った事例について見ていきます。

遺言で多くの財産を相続することになった次女だが…

相子 そういえばウォーキングサークルで親しいRさんも、相続のことでお姉さんや弟さんともめていて大変だったと言っていたわ。

 

宗太郎 今度はどんなトラブルだい? 親がちゃんと遺言書を書いておいたら防げるのに、怠けるからそういうことになるんだ。

 

圭子 あら、じゃあお父さんはもう書いてあるの?

 

宗太郎 そ、それは相子にきちんと教わってからだな・・・。

 

相子 本当にお願いよ。それでRさんのところはもう10年ほど前にお母さんが亡くなってるんだけど、最近になってお父さんも亡くなられたの。書斎を探したら遺言書が出てきたから、Rさんは普段お付き合いのある税理士さんに相談して、家庭裁判所に持っていったらしいの。「検認」を受けて無事に遺言書の内容が認められたんだけど、その内容は一緒に暮らして面倒を見ていた次女のRさんに自宅と預貯金の半分を譲るというものだったらしいの。

 

宗太郎 それじゃあ、お姉さんと弟が怒りそうだな。

 

相子 実際に「Rさんだけズルい!」って大喧嘩になったらしいわ。でも預金の半分と有価証券を合わせたら、遺留分はクリアできるから、お姉さんと弟さんは文句を言うことくらいしかできなかったんですって。

 

圭子 それでも兄弟姉妹がそんなになるなんて、悲しいわねぇ。

 

相子 でもその後Rさんは1人で相続税の申告をすませて納税しようとしたんですけど、そこで困ることが起きたそうです。

 

北井 なにが起きたんですか?

 

相子 1人ではお母さんの預金が下ろせない、手続きできないって銀行に拒否されちゃったらしいです。相続税申告と納付の期限が迫っていて、Rさんは気が気じゃないって嘆いていました。

「遺言執行者」でない者は、単独の手続きができない

圭子 先生、Rさんはなぜ預金が下ろせなかったんですか?

 

北井 簡単にいえば、遺言書に不備があったためです。

 

相子 でも家庭裁判所で検認を受けて有効だったんですよ。

 

北井 たしかに遺産分割については法的な効力があるものだったのでしょう。ただ、Rさんが自由にお金を下ろして相続の手続きを進められるようにするためには、Rさんを「遺言執行者」に指定する必要があったのです。お父様がそれを知らなかったので、困りごとが起きているのだといます。さらにいえば、兄弟姉妹が納得して親の死後も仲良く暮らせる遺言書でなければ、やはり違う意味で「不備がある」というべきかもしれませんね。

 

<ONE POINT>

●遺言書に書かれている行為を実行してもらうには「遺言執行者」の選任が必要

●相続人単独の不動産の名義変更、預貯金や保険の解約などは、遺言執行者でなければ行うことができない

●遺言執行者には未成年者や破産者を除いて誰でもなることができる

本連載は、2016年12月14日刊行の書籍『「相続」のことがたった1時間でわかる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「相続」のことがたった1時間でわかる本

「相続」のことがたった1時間でわかる本

北井 雄大

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の納税資金が足りず資産を手放すことになった、知らぬ間に親が多額の借金をしていた、相続財産の分配について家族間で争いが起こった…。相続では、正しく対策を打っておかなければ、残された家族が大きなトラブルに巻き…

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