前回は、被相続人の意思を伝える、遺言の「付言事項」の重要性について取り上げました。今回は、「未成年者の相続」にまつわるトラブル事例を見ていきます。

未成年の子供の相続放棄を認めなかった裁判所

圭子 先生、こういうケースはどうなんでしょう。ご近所のNさんはこの間事故で旦那様が亡くなって、やっぱり遺産分割でトラブルが起きたらしいんです。

 

相子 Nさんのうちは10代の子供がいるんじゃなかった?

 

圭子 17歳の息子さんと15歳の娘さんがいるわ。旦那さんの財産が多かったので、相続税の支払いに苦労したんだって。

 

相子 まだ若いんだから、奥さんがなるべく多く相続して「配偶者の税額軽減」を使えばよかったんじゃないのかな?

 

圭子 その軽減制度というのを使うために、息子さんと娘さんに相続放棄させようとしたらしいんです。ところが裁判所がそれを認めてくれなかったから、結果的にずいぶん相続税をとられちゃったということなんです。

未成年の相続人がいる場合、特別代理人の要不要を確認

相子 Nさんのケースは不思議なんですけど、どうして家庭裁判所は相続放棄を認めてくれなかったんですか?

 

北井 それは子供さんが2人ともまだ法律行為ができない未成年者だったからですね。

 

圭子 じゃあ、未成年者は相続放棄ができないんですか?

 

北井 いえ、そうではありません。親権を持つ親が法律行為を代行する「法定代理人」として手続きを代行すれば、相続放棄をすることができます。

 

宗太郎 法定代理人というのは親なんですか?

 

北井 はい、普通は親権を持つ両親が法定代理人を務めます。ただしNさんのようなケースではそれも認められません。

 

宗太郎 えっ!?  どうしてですか?

 

北井 子供たちが相続放棄することで、Nさんの相続分が増えますよね。つまり親であるNさんと子供たちの利害が相反するので、親が法定代理人を務めることができないのです。その場合には「特別代理人」の選任が必要となります。

 

相子 特別代理人というのはどんな人ですか?

 

北井 特別代理人は法定代理人と同じく未成年者の代わりに法的な手続きなどをする人です。特に資格などは不要で、通常は祖父母や伯父、伯母などが選任されます。司法書士や税理士などが務めることもできます。Nさんの場合は特別代理人が必要であることを知らなかったため、相続開始から3か月以内という相続放棄の期限に間に合わず、配偶者の税額軽減が使えなかったのでしょう。

 

圭子 先生、Nさんはこの場合どうすればよかったんでしょうか?

 

北井 相続人に未成年者がいる場合には、特別代理人の要不要をまず確認しておくと安心です。Nさんも先にそれをしておけば、期限に追われることはなかったでしょうね。

 

<ONE POINT>

●未成年者が相続に関する法律行為をするときは「法定代理人」が手続きを代行しなければならない

●「法定代理人」には親権を持つ親、祖父母、伯父・伯母などのほか、司法書士や税理士といった法律の専門家に依頼することもできる

本連載は、2016年12月14日刊行の書籍『「相続」のことがたった1時間でわかる本』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「相続」のことがたった1時間でわかる本

「相続」のことがたった1時間でわかる本

北井 雄大

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税の納税資金が足りず資産を手放すことになった、知らぬ間に親が多額の借金をしていた、相続財産の分配について家族間で争いが起こった…。相続では、正しく対策を打っておかなければ、残された家族が大きなトラブルに巻き…

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