そのリフォームは「費用分の効果」を得られるか?
オフィスビルのリフォームにはそれなりの費用がかかります。ビルの規模や劣化状況、手を入れる部位などによって金額は大きく異なりますが、非常にざっくりとした目安を挙げるとすると、10階建ての中小規模のオフィスビルでトイレ回り、床、壁などの最低限をリフォームして5000万円というところ。
建物内の、表面的な部分をきれいにするもので、率直なところ、ビルの価値を大幅にアップさせるというほどのリフォームとまではいえません。それに加えて、オフィスの扉や玄関回りなどを変えるとすると、プラス5000万円、合計では1億円程度でしょうか。ここまでやれば、外観、オフィススペースの印象を変えることができ、ビルを一新したといってもよいリフォームになる可能性があります。
さて、これだけのお金をかけるわけですから、当然、空室解消、収益改善に役立つリフォームをする必要があります。せっかく予算をかけても、テナントに気づかれない、喜ばれないリフォームではお金の無駄遣いです。
そのためには、テナント募集に有利になるリフォームを行うことが基本。リフォームによって稼働率が上がり、賃料値上げをしやすくするようにしなければなりません。これについてはリフォーム事例などをご覧いただくとして、もうひとつ大事なのは、費用をかけただけの効果が上げられるかどうかを長期的に試算してみることです。
テナントの目線に立ってマイナスと思われる部分を強化
図表1は当社で手がけたビルの試算例ですが、各階ごとに異なる契約時期、賃料に合わせて細かく今後の賃料の予測を行っています。
こうした試算表を見る際にポイントになるのは、試算時にリスクをどの程度に見積もっているかです。会社によっては5年、10年という長期にわたる試算にもかかわらず、空室期間がほとんどない、現実にはあり得ない試算を行っていることがありますが、そんな試算を信用してリフォームに踏み切ってはいけません。
どんなに条件のよいビルでも、退去するテナントがゼロということはあり得ませんし、退去があれば空室期間も絶対にあるものです。それをゼロとして試算するのは、将来予測が甘く、大変危険ですし、それによってオーナーに取り入ろうとする意図にも警戒すべきでしょう。また、リフォームによる賃料値上げもそうそう一時期に多額のアップが実現できるわけではありませんから、そのあたりの見通しについても厳しいチェックが必要です。
ちなみに当社の場合、退去後の原状回復、新規募集のための空室期間を見込み、入居時のフリーレントをつけて賃料を想定。さらに、不測の空室期間も考慮した上で収支を算出するなど、そのビルに応じたリスクを見積もって試算を行っています。つまり、試算とはいえ、実現不能な計算ではなく、できる限り、現実に近い数字を出しているのです。
試算の結果、リフォームを決断したとしても、予算的にすべてをリフォームすることができない場合があります。その場合には予算内で優先順位をつけることになります。基本的にはテナント募集を有利に進めるためにするリフォームですから、競合物件と比べて自ビルが劣っている部分、テナントの目線に立ってマイナスと思われる部分を強化するのが基本です。
私の長年の経験からすると優先順位は、
①テナントの第一印象を左右することになる玄関からエントランス
②テナントの顔となる各フロアのエレベーターホール(1階、基準階とも)
③古さ、劣化が一番出やすいトイレ・給湯室回り
といったところ。
このうち、特にお金がかかるのは玄関回り、トイレ回りです。もうひとつ、これらの箇所とは別に、できるだけ導入、しかも最新設備を導入することが望ましいのがセキュリティです。地域の治安に応じて導入を検討するという考え方もあるようですが、私は地域に関係なく、ビルの競争力アップには欠かせないものと考えています。