「下限賃料」は入手しにくい情報だが・・・
今回は、物件広告からは入手できない情報について見ていきます。最初は室内ネット率です。オフィスの場合の賃貸面積の記載については法律の規制がありません。ご存じのように、分譲マンションであれば、建物の床面積には壁の中心から測る壁芯面積、壁の内側から測る内法面積の2種類があり、パンフレットなどの建築上の面積は壁芯面積で、不動産登記の面積は内法面積で表記されることになっています。ところが、オフィスの場合には、
●法定床面積を専有室内面積の割合で按分して決める
●専有室内面積と共用面積のうちの一定部分の面積を算入して決める
●専有室内部分の壁芯面積とする
と、会社によって算出方法はばらばらです。パンフレットに100坪とあっても、それが専有室内のみの面積なのか、共用部分も入れた面積なのかはわからないわけで、それを明確にするのが室内ネット率という項目です。
入居可能日は広告から容易に知ることができますが、似ているようでも募集開始日、現空期間はわからないものです。しかし、いつから募集して、何カ月空いているかは競合物件の値下げの可能性を探るための大きな情報となり得ます。空室期間が長いビルであれば、現状広告で出している賃料よりも値下げする可能性が高いからですが、この情報を入手するためには、やはり調べてみるしかありません。
競合物件がいくらまでなら交渉に応じるかを表すのが下限賃料という項目です。実際にはオフィス市場はリアルタイムで変動しますし、賃料は相手があって決まるもの。また、下限賃料を決めているオーナーは少ないため、この数字はあくまでもこの辺までは交渉可能だろうというアバウトなものです。しかし、何度も繰り返しリサーチをしてきた経験からすると、ここで出てくる賃料はテナントがほぼ決まる目安であり、最終的にはそれよりも低い賃料で決まるケースが少なくないようです。
下限賃料を調べるためには仲介会社あるいはオーナーに直接聞くしかありません。非常に優良な、たとえば一部上場企業の関連会社が入居を希望しているとして、いくらまでなら賃料交渉の余地があるか、ずばり聞いてみるのです。相手にとっては非常に答えにくい内容ですから、この手の問い合わせは誰にでもできるというものではありません。個人のオーナーには、調べにくい項目のひとつといえるでしょう。
他の成約情報を入手したら、その「裏づけ」も取る
下限賃料同様、個人のオーナーが入手しにくい情報が成約情報です。具体的には成約賃料はもちろん、保証金、更新料、償却費などの条件を指します。これらの情報業者間でもなかなか出回るものではありませんから、それなりのノウハウ、情報網がなければ入手は不可能です。しかし、厳密に比較しようと思った場合には、これらの情報は必須。ことに近年は当初の広告で表示されていた額よりも低い賃料で成約している例もあるため、成約賃料を知らなければ完全な比較になりません。
また、情報を調べるだけでなく、その裏づけを取ることも大事です。たとえば、相場よりも非常に高い坪単価で成約したビルがあったとします。それをそのまま、鵜呑みにして、その額が相場と考え、賃料を設定するのは早計というものです。
というのは、極端に相場より高い、安いという場合には何かほかの事情があることが多いのです。調べてみたら、入居が決まったビルの正面に本社があり、子会社がこのビルに入居。親会社のすぐ近くにオフィスを構えることで業務が迅速に進むため、高額ながら入居を決めていた・・・これを参考にしても相場からは乖離してしまいます。
あるいは順位表で下位のビルが決まっているとしましょう。その場合には既存テナントの関係会社が借りている、もしくはオーナーの関係会社が借りているなど、何かしらの理由があります。そこで賃料が安く設定されているのを参考にしても、これまた相場から乖離してしまいます。世の中の出来事はすべて必然であり、テナントが決まる、決まらないにも理由があります。空室解消にはその理由を探ることが大事なのですが、単に仲介をするだけの会社ではそこまでの労力はかけません。
もし情報をちゃんと集めてくる仲介会社だとしても、集めた情報をそのままオーナーに渡しておしまいでしょう。しかし、情報は集めるだけでなく、分析し、裏を取ってその意味を探ることまでしないと、生きた情報にはなりません。当社の募集条件比較表はそこまでの作業を経て、ようやく、オーナーにとって役に立つ情報となるのです。
募集条件比較表で、すべての条件を総合的に比較する
これだけ多面的にオフィスを分析、比較すると、妥当な賃料はおのずから見えてきます。しかも、それは条件のうちのひとつの項目としての賃料ではなく、他の条件も含めた、総合的に妥当な賃料です。
企業がオフィスを探す場合、最低限の必要な面積は動かせないものの、それ以外の条件は他の条件との兼ね合いで変更の余地があります。つまり、企業は賃料オンリーでオフィスを決めているわけではなく、条件全体を見て決めているのです。募集条件比較表を作ると競合物件すべての条件を全体として比較できるようになります。そうして決定した賃料、募集条件であれば、相手の納得度も高く、テナントが決まりやすくなるのはもちろんですし、賃料値下げの要望にも対応しやすくなります。