可能であれば告知したくない「心理的瑕疵」
物理的瑕疵や法的瑕疵については、本来、売主や貸主、仲介業者が、善良な管理者として注意義務を払うべきことで、やり方次第では十分に防ぐことができる。その発生の有無は、売り手側・貸し手側の良心の問題であろう。
また、物理的瑕疵については表面化しやすく、後々トラブルが生じる可能性も高いので、売り手側・貸し手側にとっても告知をしないほうがむしろ勇気がいるかもしれない。
しかしながら、環境瑕疵や心理的瑕疵については、外部環境から悪影響を受けたり、過去に不幸な偶発的事象が起きたりと、売主・貸主や仲介者の責任で生じるものでないことが多い。
ゆえに、これらを説明しないことに罪悪感が生じにくいだろうし、隠し通せる可能性が高いのであれば、相手が気にかける様子もないことまで、何もかもバカ正直に説明して、みすみす取引のチャンスを逃すようなことはしたくないのではなかろうか。
騒音や振動、水害の可能性も、さらにはかつて自殺者が出たという過去なども、告げられることで過剰に気にし始める人もいるだろうし、あえて寝た子を起こすこともないという発想になるのも不思議ではない。「事実」を知ってしまったことで悪いことが起きたら全部、そのせいにされてしまうことさえあるだろう。
宅建業者としては、目に見えるわけでもない、直接法に触れるわけでもない環境瑕疵や心理的瑕疵を告知するのは気が進まないはずだ。とりわけ、現在進行形の悪影響があるわけでもない心理的瑕疵については、可能であれば告知したくないのが本音に違いない。
物件の弱みを見せることは、相手に価格交渉のチャンスを与えることにもなりかねないし、取引そのものが白紙になる可能性もある。
自らの瑕疵をカミングアウトしている告知事項あり物件
競争の中で、不動産業を営んでいる以上、一件でも多く好条件で成約させて、売上を獲得したいのに、言わなければ気づかないかもしれない不利な事項をわざわざ告知することに葛藤を覚えないはずはないのだ。
もちろん、告知する必要はないと宅建業者が考える瑕疵の程度が、買い手側・借り手側にとっても許容範囲内にあれば、問題は生じないだろう。
しかし、現実には、宅建業者が瑕疵と捉えていなくても、買い手側・借り手側にとっては重大な瑕疵となる場合がある。中には、悪意なく瑕疵があることに気づいていないケースさえある。
告知事項あり物件というのは、自らの瑕疵をいわばカミングアウトしている、そういう意味では非常に良心的な物件だとも言える。ただ、告知事項あり物件は100%瑕疵物件であるが、その逆は成立しない。
買い手側・借り手側の立場から見ると「瑕疵がある」のに告知されない物件、つまり隠れた瑕疵物件=訳あり物件が、世の中には山のようにあるのだ。