不明確な「購入者(賃借者)の利益に関する重要事項」
告知事項ありの瑕疵物件は、それから受ける影響の大きさを考えると、安易に手を出すべきではない。
また、価格・賃料において一見メリットがありそうでも、場合によっては結果的にかえって高くつく可能性さえある。多少のことならと最初は感じても、「多少」の影響は決して小さくないのだ。
つまり、告知事項ありの瑕疵物件は本来的には避けるに越したことはないと言えよう。不動産取引においては、まさに「君子あやうきに近寄らず」が基本なのである。
ただし、告知事項あり物件さえ避ければ安心なのか、と言えば決してそうではない。
宅地建物取引業者(通称、宅建業者)は、宅建業法第35条において、重要事項(①物件に関する権利関係……登記された権利の種類・内容など、②物件に関する権利制限内容……都市計画法や建築基準法等の法令に基づく制限など、③物件の属性……飲用水・電気・ガスの供給・排水施設の整備状況など、④取引条件……契約の解除に関する事項など、⑤その他、取引に当たって宅建業者が講じる措置など)の説明義務を負っている。
また、同業法第47条においては、第35条に規定されていない事項であっても、購入者の利益に関する重要事項であれば、告知をしないことや真実でないことを告げることは、禁止されている。
しかし、第35条の規定事項は、宅建業法上、重要事項として調査・説明しなければならない最低限の説明事項である。そして、同業法第47 条で言われるところの「宅建業法第35条に記載されている項目以外」においては、何が「購入者(賃借者)の利益に関する重要事項」に該当するかが不明確だという大きな問題がある。
つまり、告知対象となる「当該事実を告げないことによって、取引の相手方などが重大な不利益を蒙る事実」とは何なのかが明文化されていないのだ。そのため、国土交通省・不動産業課も、「(何を告知対象とするか)不動産取引を定める宅建業法に規定がないため、はっきりと定まっていない。借主さんの気にされそうなことは説明しておいた方がよい」と宅建業者に指導を行うのが精一杯なのである。
仲介業者に任されている告知・説明事項の選定
確かに今日においては、嫌悪施設が環境瑕疵として問題になることが多いため、近隣に悪臭・ばい煙・振動・騒音を発生させる施設(ごみ廃棄処分場、ごみ集積所、養鶏場、養豚場、工場、鉄道、幹線道路、集配所、バスの操車場、飛行場など)が存在している場合は、重要事項説明書に記載されているケースは多い。
また、どのような建物や施設が近隣に建てられるかといった将来的な可能性について記載されるケースも増えている。自治体が定める都市計画、近隣の用途地域、容積率の制限などを確認し、高層建築物や嫌悪施設が建つ可能性について記すのも、もはや通例だ。
その他、高圧線や配管・浄化槽、ごみ屋敷から近隣の争いごとに至るまで、重説の注意事項とされるものは幅広く、心理的瑕疵についても、過去に自殺や事故がなかったか、或いは暴力団事務所がないか、といったことも「購入者(賃借者)の利益に関する重要事項」と考えられている。
しかし、いずれも、どこまでの範囲を重説に記載すべきかが必ずしも明確ではない。そもそもどんな項目を記載すべきかの規定も存在しないため、究極的には、告知・説明事項の選定は、仲介業者に任されているのが現状である。
その結果、実際に住んでみて初めて、買主や借主が思わぬ瑕疵に気づくというケースが少なくないのである。