今年3月に行われた香港行政長官選挙。2014年の民主化デモ以降、初めての行政長官選挙ということで注目を集めましたが、無難に親中派が当選しました。高騰し続ける不動産や広がる格差など多くの社会問題を抱える香港の今後を占います。

香港経済の大きな障害は「高すぎる住宅価格」

香港では、行政長官選挙が3月26日に実施され、林鄭月娥(キャリー・ラム)前政務官(59)が当選した。香港では初の女性行政長官が誕生した。

 

香港の行政長官選挙は、一般市民には投票権はなく、選挙委員(定数1,200人)からなる選挙委員会の投票による間接選挙である。その選挙で、林鄭氏は、いわゆる親中派の選挙委員の支持を得て当選したと言われる。2014年の民主化デモ以降で初めての行政長官選挙ということで注目されたが、無難に親中派が当選するという結果に終わった。

 

 

香港大学による選挙前の調査では、林鄭氏の支持率は30%にとどまり、普通選挙の実施を公約に掲げた曽俊華(ジョン・ツァン)前財政官の56%に大きく水をあけられていた。1997年の香港返還以来、事前の世論調査でトップでなかった候補者が当選したのは初めてのことでもあり、そういう点では、民意不在とも言えるだろう。そのため、中国共産党系の支配層には受けがいいが、香港の街中では不人気というのが専らの評価である。

 

不人気ぶりが伝えられる中、行政長官に就任する林鄭氏は、経済面でも難しい課題に直面することになる。香港の経済成長率は7年ぶりの低水準に落ち込み、賃金は住宅価格の伸びに追いついていない。貧富の差は拡大する一方である。加えて、林鄭氏もかねてより香港の発展にとって不動産問題と労働問題が「主要な障害」になっていると指摘するように、高すぎる住宅価格と「持つものと持たざるもの」の貧富の格差と不公平感は、社会的な緊張にさえ繋がる社会問題でもある。

香港の経済成長率は2%台半ばまで回復する可能性も

香港は庶民が手ごろな価格で買える不動産が世界で最も少なく、アパートの購入価格は年収中央値の18倍という調査すらあるほどだ。しかし、香港政府が3月31日に発表した統計では、2月の民間住宅価格指数は11カ月連続で上昇し、過去最高を更新している。2月の指数は前月比1.1%のプラスで、312.8と前年比では14.3%もの上昇である。

 

シンガポールの住宅価格がピークからは下げに転じていると伝えられる中、香港の住宅価格の騰勢は止まっていない。政府は住宅の供給量を増やすと明言し、不動産価格を抑制するため、住宅売買にかかる印紙税を引き上げたが、抑制効果はほとんどみられていないのである。当選後の最初の任務として、林鄭氏は、住宅問題に特に、「本腰を入れて」取り組む考えを表明した。年間の不動産売買計画だけでなく、長期的な供給増加策や、土地抵当銀行についても検討する意向を示している。

 

厳しい先行きを予想する声も多いが、林鄭氏は予想外の実績を上げるかもしれないという期待もある。支持率が低いところから政権運営を開始できることで、これからは上がるだけだという皮肉めいた期待である。また、経済状況は、米国経済が堅調に推移しているなど、足元もそれほど悪くない。財政収支も2004-05年度に黒字転換して以降、香港政府は黒字財政で、良好な状態が続いている。林鄭氏は、この財政政策の発動余地を活用する可能性が高まっている。

 

中小企業向けの減税や教育への投資、住宅問題への対応で土地の供給を増やす計画は、経済的な刺激策という以上に、香港の街中での支持を高める可能性がある。そして、社会福祉政策関連の支出を増やすことで、これまで香港ではあまり実施されてこなかった経済格差への対応・所得再分配という形で、点数を稼ぐことができるかもしれない。

 

親中派ということで、支持率が急上昇するということは望めないが、政策発動余地をどう活用するかで、支持率の上昇と経済の動向は、予想よりも確りとしたものになろう。香港の2017年の経済成長率は昨年の1.9%を上回り、2%台半ばまで回復する可能性は十分にあるだろう。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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