今回は、相続発生前に行っておきたい「財産の仕分け」について見ていきます。※本連載は、エクスプレス・タックス株式会社の代表取締役で、税理士の廣田龍介氏による著書、『事例でわかる高齢化時代の相続税対策』(毎日新聞出版)より一部を抜粋し、相続の基本的な知識を、事例を交えながら紹介します。

まずは財産の棚卸しを行い、明細を作る

財産の棚卸しをして明細を作ると、現状の相続税額を大まかに計算できるようになる。すると漠然とした不安は消え、向かうべき目標がはっきり見えてくる。ようやく具体的な戦略を練る段階に来た。

 

まずは、残すべき財産と、処分すべき財産の仕分けから。残すにふさわしい財産かどうか、その価値を判断しないといけない。

 

資産価値をはかる基準は

 

(1)換金性

(2)収益性

(3)有益性

 

の三つだ。

換金性も収益性もない財産はどうするか?

ブームに乗って購入し、そのまま放置されている別荘地。売りたいけれど、買い手が見つからない遊休地。自分の会社、子供の会社。友人や知人に貸し付けた、返済の見込みのない貸金。いつの間にか数だけ増えてしまった預金通帳。先代からの相続財産で、まだ相続登記をしていなかったり、共有状態になったりしている土地・建物――。

 

換金性のない、将来価値を生まない財産は、相続税や固定資産税といった将来債務を抱えた負債と同じで、価値ある財産とはいえない。

 

例えば、権利調整しなければならない財産として、兄弟や親戚との共有状態の土地、建物がある。しかし、自分の持ち分だけを売却することは原則できない。共有状態では単独で有効活用ができず、担保価値も低いので銀行融資を受けにくいし、不動産としての価値も低いままだ。にもかかわらず、相続税評価額は持ち分で計算されてしまう。

 

こうした場合は共有物を分割するか、持ち分を売却するか、マンションなどを建設できる場合は土地と建物を等価交換する――などの方法で権利を調整し、単独で相続税対策をできるようにする。これが、換金性、収益性、資産価値の安定性を維持しながら資産を組み替える、ということだ。

 

具体的な作業には時間がかかる。生前対策の最大の目的とメリットは、この対策のための時間を確保することである。

 

また、土地の価格や建物の建築費などは経済情勢で大きく変わる。価格の高い時に取得し、価格の安い時に処分すると大きな損失が出ることがあるので、その場合は何もしないことがベストな対策になる。経済情勢の変化のリズムに合わせなければならない時、やはり、それなりの時間が必要になる。

毎年110万円の非課税枠を使った贈与で対策を

相続対策における節税とは、相続税の節税だけとは限らない。例えば、両親の財産から生じる所得税や、その所得が生まれる事業用の建物を法人所有にして、法人税で対策を講じるなど、税の種類を超えた検討も可能だ。

 

また個人所得税についても、

 

給与所得・不動産所得など総合課税(最高税率55%)

退職所得や一時所得など二分の一総合課税の規定

不動産・有価証券のような20%分離課税

 

など、課税方法の違いに着目する対策も取り得る。

 

さらに簡単で分かりやすい対策は、毎年110万円の非課税枠を使った贈与だろう。しかし、相続開始前3年以内に相続人に贈与した財産は、相続財産に組み込まれるので、生前対策はできるだけ早いうちから実行することが大切だ。

 

アベノミクスで株価が上がり、土地・マンション価格が上昇した。こうした影響を心配する人も増えている。

本記事は、毎日新聞のニュースサイト「経済プレミア」に2015年6月から連載されている「高齢化時代の相続税対策」と、同名の書籍(毎日新聞出版刊)を元にしています。その後の税制改正などには対応していない可能性もありますのでご了承ください。

事例でわかる 高齢化時代の相続税対策

事例でわかる 高齢化時代の相続税対策

廣田 龍介

毎日新聞出版

相続税が増税され、富裕層でなくても相続の正しい知識と対策が必要な時代になりました。少子高齢化・長寿化で生前対策の重要性も増しています。あなたの大事な資産を生かす方法を、税理士の廣田龍介さんが指南します。毎日新聞…

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