税務当局が注目した、ある美術品の評価と申告税額
税務当局は相続税の調査で現金の動きに注目するが、それは申告漏れを疑うからである。それ以外に、相続財産の評価額そのものを調べることもある。申告税額が妥当かどうかをチェックするためだ。
東京都内のある男性が亡くなった。男性は美術品収集が趣味で、所蔵品の中に、帝政ロシア時代に作られた美術品「インペリアル・イースター・エッグ」のレプリカ(複製品)があった。何年か前に百貨店で億円単位で購入したものだ。
このレプリカの申告税額について、税務当局が調査に入ったのである。
インペリアル・イースター・エッグは、帝政ロシアの皇帝アレクサンドル3世、ニコライ2世が19世紀後半から20 世紀初頭にかけて、金細工師ピーター・カール・ファベルジェに作らせた精巧な美術工芸品のことだ。
全部で約60個が作られたが、その後革命でロシア帝政は崩壊、十数個が散逸して今も行方不明とされる。世界の富豪が本物を探し求める芸術品で、オークションではかなりの高値がつく。
もちろん、男性が購入したのはレプリカだが、貴金属などをふんだんに使い、しかも美しい細工が施されていたため、購入価格はそれなりに高価だった。
本物だったら、「約66億円」の相続税が!
財産を評価する際は「時価」、つまり、実際に売れる価格で評価するのが原則とされる。レプリカを相続した家族はこの考え方に基づき、評価額を申告した。
レプリカなので、精巧ではあっても美術的価値はそう高くないことが分かった。そのため、使われている貴金属、宝石類の処分価格を時価と考え、申告した。
これに対し税務当局は、男性がいくらで購入したかに着目し、販売した百貨店がエッグを仕入れた原価を評価額とするよう主張した。家族は税理士を通じて税務当局と粘り強く交渉し、仕入れ価格が時価よりかなり高かったことから、時価評価した金額を相続税の申告額として認めさせた。
万一、このエッグが行方不明になったものの一つで、本物だったらとんでもないことになるところだった。エッグは希少な美術品として知られ、アメリカのオークションではかつて1億ドル近い値がついたことがあるからだ。
時価1億ドル(現在のレートで約120億円)の美術品の相続税がいくらになるか、考えるだけで恐ろしい。日本の相続税の最高税率は55%だから、計算すると約66億円になる・・・。