今回は、税務調査で目を付けられやすい「配偶者の預金」について、どのような対策を行えばいいのかを見ていきます。※本連載は、エクスプレス・タックス株式会社の代表取締役で、税理士の廣田龍介氏による著書、『事例でわかる高齢化時代の相続税対策』(毎日新聞出版)より一部を抜粋し、相続の基本的な知識を、事例を交えながら紹介します。

「本当に妻の預金なのか」を疑う税務署

相続税の調査は現金の動きを確認することがメインであるが、税務調査で一番目を付けられ、課税されやすいのは、実は配偶者の預貯金だ。やりくり上手な配偶者の方に改めて解説しておきたい。

 

妻が2億円の預貯金を持っていた事例での相続税調査に携わったことがある。その際の国税局の質問、聞き取りのポイントは次のようなものだった。

 

●ご主人と結婚した時は、持参金はありましたか。

●実家から相続した財産はありますか。

●勤務経験はありますか。何年ぐらい勤めて給与はいくらでしたか。

●贈与を受けたことがありますか。

●贈与税の非課税金額がいくらか知っていますか。

●年間110万円を超える贈与は、贈与税の申告が必要なことを知っていますか。

収入も贈与もなければ、妻名義の預金は「相続財産」に

収入がないことを確認するための、外堀を埋めるような質問から、夫からの贈与の有無を確認するため、内堀を埋めるような質問に変化していくのがよくわかる。収入がなく、贈与もなければ、基本的に妻のお金はないことになるので、妻名義の預貯金であっても、夫からの相続財産、ということになる。

 

自分名義の預貯金について、妻は非常に口が堅くなる傾向がある。預貯金の存在がわかると、子供たちにとられてしまうと考え、その存在を隠そうとするからだ。そのため、税務調査でも誤解を受ける回答をしてしまうことが多いので、注意が必要だ。

 

このケースは、婚姻20年以上に適用される居住用2000万円の無税贈与を妻が受けていて、バブル時代にその資産を売却・運用し、2億円まで増やした経緯を説明できたので、事なきを得た。

預貯金の額によっては蓄積過程を通帳等にメモする

もう一つ、長男の預貯金が10億円ほどあり、その蓄積過程に疑問を持った国税局が調査に入った事例を紹介する。

 

国税の疑問は、親の相続財産としての預貯金よりも、長男の方が多額の預貯金を持っていた点に向かった。これについては、申告税理士として説明を受け、理解していたので、「調査官にその通りのことを話してください」と事前に伝えていた。その事情は次のようなものだ。

 

長男が20歳のころ、父親が自宅近くの約500坪の敷地に大手企業の社宅用マンションを建設。その建物を長男に一括贈与し、長男が賃貸で運用していた。長男は資金を債券や証券投資にあて、堅実に増やしていった。バブル期前の運用利回りは8%以上だったため、現金が10億円まで増えたようだ。

 

国税局は、8%前後の利回りで10億円まで増えるのかどうか確認するため、約40年分の運用結果を金利変動を加味しながら調べた。最後は納得してもらえた。

 

過去に不動産の売買、株式売買で多額の資金を得た人や、法人役員として高額報酬を得たり、不動産所得などで税金を多く納めたりした、いわゆる「富裕者層」を常にチェックしている。

 

多額の預貯金がある場合、その蓄積過程を、遺族にもわかるように通帳などにメモで残しておくことも、相続対策の一部である。

本記事は、毎日新聞のニュースサイト「経済プレミア」に2015年6月から連載されている「高齢化時代の相続税対策」と、同名の書籍(毎日新聞出版刊)を元にしています。その後の税制改正などには対応していない可能性もありますのでご了承ください。

事例でわかる 高齢化時代の相続税対策

事例でわかる 高齢化時代の相続税対策

廣田 龍介

毎日新聞出版

相続税が増税され、富裕層でなくても相続の正しい知識と対策が必要な時代になりました。少子高齢化・長寿化で生前対策の重要性も増しています。あなたの大事な資産を生かす方法を、税理士の廣田龍介さんが指南します。毎日新聞…

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