リターンが期待できるエリアはリスクも高い
今回からは、海外不動産投資の物件選択のプロセスについて説明します。前回までに説明したように、資産運用においてはまず投資の目的を明確化し、それに合った投資対象を選択することが重要です。そのためには投資対象にどのようなリスクがあって、その対価としてどの程度のリターンが期待できるのかを把握する必要があります。海外不動産投資と言っても、投資エリア、投資対象によってリスクやリターンは大きく変わってきます。
海外不動産投資はリスクのある投資ですが、そのリスクは投資対象国によって異なります。金融の世界では「フリーランチ(タダ飯)はない」とよく言われます。リターンが期待できるエリアはリスクも高いということです。リスクが低くてリターンが高いといったうまい話は存在しないのです。
例えば、先進国と新興国を比較すれば先進国のほうが法整備が進み、投資対象へのリスクは一般に低くなります。新興国は値上がり益や利回りで高いリターンを期待することができますが、その反面リスクも大きいと言えるのです。
新興国の中でも、マレーシアのように先進国に近い発展が進んでいる国は経済成長とともに期待リターンも低下してきています。逆に、カンボジアやバングラデシュのような新興国の中でも発展段階の初期にある国は大きなリターンも期待できますが、その分リスクも大きいと言えるのです。
[図表]国別のリスクとリターン(イメージ)
海外不動産投資は為替の変動にも注意が必要
海外不動産投資は、国内の不動産投資と異なり、為替の変動による影響もあります。円ベースの収益は、
物件価格の上昇率=現地価格の上昇率×現地為替レートの上昇率
のかけ算で計算できます。
わかりやすい例として、1ドル=100円として、10万ドル(=1000万円)の物件を考えてみます。
物件が現地で10%値下がりしたとしても、為替が10%円安(1ドル=110円)になれば、円ベースでのリターンは、ほぼゼロになります。物件が現地で20%値上がりし、さらに為替も20%円安(1ドル=120円)になれば、円ベースでは44%のリターンになります。
為替レートの変動は、円ベースの物件価格だけでなく、購入した不動産物件を賃貸した時の家賃にも影響します。
10万ドルの物件を、月1000ドル(10万円)で貸し出したとしましょう。毎月受け取る家賃も、現地での家賃の上昇と為替レートのかけ算によって変わってきます。1000ドルの家賃が1100ドルになれば、1ドル=90円の円高になっても円ベースの金額では9万9000円とほとんど変わらないことになります。海外の賃貸物件では、家賃が上昇することも珍しくありません。また、円安になれば円ベースでは、投資のリターンは高くなります。
なお、米ドルで物件や家賃をやり取りするのは、アメリカの不動産以外ではカンボジアなど一部の国のみです。それ以外の地域では、それぞれの国の通貨で投資し、家賃を受け取ることになります。その場合、為替レートはドルと円の交換比率だけではなく、ドルと現地通貨の為替レートの変動にも影響されることになります。
例えば、マレーシアの不動産に投資をする場合、為替レートとしてはドルとリンギット(マレーシアの通貨)の関係もチェックする必要があるのです。円とドル以外の他通貨の為替レートは、ドル円とドルと他通貨の関係に分解して考えることができます。マレーシアリンギットの場合は、ここ最近はドルに対して上昇しています。
このように米ドル以外の通貨で投資をする場合は、ドル円だけを見るのではなくドルと現地通貨の関係もチェックする必要があるのです。