業績悪化を招いた、後継者の「踏ん切りの悪さ」
「2代目が継いでからあそこはダメになった」
どんな業界にも世代交代後に悪い評判が立つことはよくあります。しかし実際、ダメになった理由、すなわち業績が傾いた理由は、どこにあるのでしょうか?
たとえば私が過去に財務評価を行った会社にこんなところがありました。その会社は建設資材を作っている創業50年以上の関西のあるメーカーで、従業員は200人を超える中堅どころでした。住宅需要が右肩上がりで伸びていた時代に、先代社長が全国に次々と拠点を設けて、売上や利益を一気に拡大して会社を大きく成長させました。得意先には大手ゼネコン系が多く、一見すると安定した収益構造のようにも思えました。
ところが、その後、長男が後を継いだものの、当時すでに不動産市場は縮小し始めていました。世代交代後も業績が堅調な地域もある一方、住宅需要の少なくなった、特に地方に置かれた拠点の採算性が、徐々にではあるものの悪化しだしていたのです。
このとき、赤字となった拠点を削減する経営方針を打ち出し、すぐに実行すればよかったのですが、拠点を整理すれば「この地域を見捨てるのか」などと内外から非難されるおそれがありますし、売上の減少が避けられません。後継者は、赤字拠点の整理をしなければいけないと思いながらも、なかなか踏ん切りがつかなかったのです。
結局、後継者が逡巡しているうちに状況はますます悪化し、会社はとうとう危機的な事態を迎えてしまいました。
世代交代前に「従来の経営戦略」を見直すべき
世代交代後に業績が悪化する原因は、多くの場合、会社が「環境の変化に対応できなかった」ことに求められます。この問題を先代社長のときに解決できていればよいのですが、過去の成功に裏打ちされた先代経営者が、環境の変化に合わせて自らが作り上げた会社の方針転換をできるケースはほとんどありません。
このような失敗を防ぐためには、事業承継の際にマーケットや産業構造など、自社を取り巻く外部環境を客観的に分析したうえで、後継者が従来からの経営戦略を冷静に見直し、必要があれば改めることが不可欠なのです。