新社長の事業計画に難色を示した銀行
資金繰りは中小企業にとって最も大きな経営課題の一つです。そのサポート役を担う金融機関からの支援を得られなかったために、事業承継後に企業の成長が困難となるケースも少なくありません。
ある金型製作会社では、先代社長が30年前に創業し、堅実な経営を続けながら、3億円強の年商をあげていました。
しかし、先代社長の作った借金が多かったために、バランスシート(貸借対照表)上の負債の占める割合は高く、また、利益率が低いために、好不況の波ですぐに資金繰りが悪化しやすいという財務基盤の不安要素を抱えていました。
この会社を引き継いだ先代社長の息子は、「不安定な経営から決別するために、さらに今後成長の見込める高価格帯の製品を作る設備を導入していこう」と考え、利益率の高い分野への成長戦略を打ち出し、銀行からそのために必要となる設備投資資金の調達を計画しました。
そこで、まずはメインバンクの地方A銀行に融資を相談したものの、債務の大きさがネックとなり、また、銀行側の担当者も新社長に対する信頼感をまだ持っておらず、結局色好い返事が得られませんでした。後継者の社長は他の取引銀行にも打診しましたが、当時は日本全体がデフレのど真ん中にあったこともあり、この成長投資にどこも難色を示すばかりでした。
設備投資が間に合わず、既存の売上まで他社へ・・・
最終的に資金調達計画は失敗し、設備投資はできませんでした。一方で大手の攻勢はますます強まり、ニッチ市場から台頭してきた競合企業との差もジリジリと開いていきました。
そしてようやくデフレを脱却した頃には時すでに遅し――。他社が受注を増やしていく中で、新しい設備を持たないこの会社は、顧客からの高価格帯の製品ニーズに応えることができず、遂には既存の売上も他社に奪われてしまったのです。
このような轍を踏まないためには、金融機関とどのような関係を築いていくのかを十分に考えながら、後継者が前もって金融機関と付き合いを開始しておくことなどが大切になります。会社の生命線を握る「資金」がうまく循環しなければ、経営が順調でも黒字倒産ということもあるのです。それぐらい金融機関との関係性構築は重要なものです。
社長の重要な仕事の一つには、この金融機関との取引が挙げられます。金融機関にはそれぞれ特色があり、その特色を見極めたうえで、最適な付き合い方をする必要があります。中でもメインバンク選びは重要な課題の一つです。場合によっては、先代の頃からのメイン銀行を変えることも検討しなければなりません。