先代の妻から引き継ぐ場合、事業承継税制は利用不可
前回、自社株を承継する方法について触れました。自社株の承継を具体的にどのように進めるのかは、「誰が自社株を所有しているのか」によって変わってきます。
すなわち自社株の所有者として、①先代社長、②先代社長の配偶者、③先代社長の兄弟、④後継者の兄弟、⑤その他親族、⑥(退職した)幹部・従業員、⑦(役員・従業員)持株会、取引先等が想定されますが、それぞれ承継の方法や注意すべきポイントが異なります。
①先代社長が所有する場合
相続か贈与の形で引き継ぐことになりますが、株式の評価額が高い場合には、相続税対策として株価の引き下げや、計画的な生前贈与を検討する必要があります。事業承継税制の活用も可能です。また、後継者以外に子どもがいる場合には、後述する遺留分への配慮も求められます。
②先代社長の妻が所有する場合
基本的に先代社長と同様に相続の形で後継者が引き継ぐことになるでしょう。なお、この場合、事業承継税制は利用できません。
③先代社長の兄弟が所有する場合
具体的には〝専務〞などの立場で先代社長を支えていたケース、あるいは先代社長自体が2代目で創業者(先代社長の父)から相続で承継したケースが考えられます。この場合の承継方法は贈与か買い取りです。後者の場合には「後継者が買い取る」「会社が買い取る」など複数の選択肢が考えられます。
また、先代社長の兄弟が所有している場合、それなりの数の株式を所有していることも多く、書籍『「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド』プロローグで取り上げたケースのようにもめる可能性が高いといえます。いずれにせよ早期に決着をつけること、問題の解決を後回しにしないことが大切です。なお、先代社長の兄弟の子どもが事業に幹部として従事している場合は、そのまま子どもに相続させるのも選択肢となりえます。
事業に関与していない兄弟からは買い取りも選択肢に
④後継者の兄弟が所有する場合
具体的には、すでに相続等で兄弟が所有しているケースです。事業に関与していないのであれば、贈与もしくは買い取りが望ましいでしょう。
⑤その他親族が所有する場合
所有する株式の数は少ないことがほとんどです。買い取り等を検討するか、あるいは経営に大きな影響がないようであれば、そのまま持たせておくのも選択肢となりえます。
⑥(退職した)幹部・従業員が所有する場合
具体的には過去に先代社長などが株式を保有させてそのままとなっているケースです。所有する株式の数は少ないはずですから、基本的な対応方針は「⑤その他親族が所有する場合」と同様になります。
⑦(役員・従業員)持株会、取引先等が保有している場合
通常は安定株主として機能している(株主としての権利を経営者の意向に従って行使する)はずです。そうであれば特別な対応の必要はありません。基本的に経営の安定化の観点からすると、持株比率が分散しているのは悪いことではありませんが、中小企業の場合は株の分散はリスクにもなるので、次回に掲げる点などには注意を要します。