毎年110万円までの贈与が非課税となる「暦年贈与」
相子 先生、生前から子供にお金を贈与しておくと相続税対策になるといいますが、実際はどうなんでしょう?
北井 贈与税を支払わずに親から子供に財産を移転できれば、その分相続財産が減るので相続税対策として有効です。その方法としてよく使われるのが、以前お伝えした「暦年贈与」と呼ばれるものです。簡単に言うと贈与には毎年110万円という非課税枠がありますので、たとえば110万円ずつを3人の子供に10年間贈与し続けたら無税で、3300万円分を相続財産から減らすことができ、節税につながるのです。
相子 110万円以内のお金なら子供が自由にもらえるということですよね?
北井 残念ながらそうではありません。いろいろと細かいルールがあるので、きちんと覚えてうまく利用しなければなりません。まず、110万円の枠を利用できるのは受け取る側です。同じ年に父親から110万円、祖父から110万円受け取ると、合計で220万円となり、非課税の枠を超えた分については贈与税が課税されます。
相子 お金を受け取るときに、子供の側は領収書かなにか渡したほうがいいのでしょうか?
北井 贈与契約書を作成して、お金を渡す人と受け取る人が署名捺印するのがよいでしょう。口約束でもかまわないのですが、被相続人が亡くなった後に他の相続人から「貸し付けだったのでは?」と疑われたり、税務署からは「名義預金では?」と疑念を持たれたりする可能性があります。
相子 ということは、110万円以下なら申告は必要ない?
北井 110万円以下であれば不要です。ただし、毎年きっちり110万円ずつ贈与していると「連年贈与(課税逃れを目的とする贈与)」と見なされて贈与税を課税されることもあるので注意が必要です。
相子 ええ!? 厳しいですね。じゃあ、どうすればいいんでしょうか?
北井 贈与額を変えるんです。たまには非課税枠を少しオーバーする金額を贈与して、その分の税金を払っておくと「連年贈与」と認定されるリスクを抑えられます。たとえば120万円の贈与なら110万円を超える10万円が課税対象額となります。税率は10%なので1万円の課税ですみます。
相子 先生賢い。なるほど、わかりました!
北井 ははっ。そうでもないですよ。それともう一つ気をつけてほしいことに、「相続開始3年以内の贈与は相続財産に持ち戻される」ということがあります。つまり、相続開始前3年以内に贈与した分は、相続財産にプラスして課税されるのです。ちょっと言い方は悪いのですが、「健康状態が思わしくないので、相続税を節税するために贈与を……」というのはダメということです。ただし相続人以外にはこの「持ち戻し」はありません。
相子 相続対策は必要に迫られてから慌てて始めるのではなく、「早くからコツコツ」がよいということですね。
夫婦の場合、住居の購入・建築費の贈与に非課税枠が・・・
北井 相子さん、贈与については子供だけではなく、配偶者について押さえておくことも非常に重要ですよ。たとえば夫婦間で居住用不動産の購入やその建築資金を贈与したときは、2000万円までは贈与税がかからない特例があります。
相子 では父が生前に母に居住用の不動産を購入するために、2000万円までなら渡してもよいということですか?
北井 はい。さらに基礎控除額の110万円を加えれば、2110万円までは税金を払わずに配偶者に贈与が可能です。しかも、贈与税の配偶者控除分によって、相続財産も減少するので、相続税負担軽減にもつながるメリットだらけの制度なんです。
相子 すごい! 贈与税の配偶者控除は使わない手はないですね。ちなみに離婚とかはどうなってしまうんでしょうか?
北井 離婚日の前日までの日付で贈与が済んでいれば、2000万円の配偶者控除は利用できます。贈与の日付は有効な書類上で証明する必要があります。また、この特例には適用要件がありますので、よくそれを確認してください。