「相続財産と見なされないもの」を買っておけば・・・
身近なところで相続税の節税を考えるなら、仏壇やお墓については生前にぜひとも検討しておくべき事柄です。また実家が農家を営むなどの場合、農地や山林については、どのような相続税対策が考えられるのでしょうか?
相子 うちの父はもともと会社員で、自営業者や大地主でもないので不動産を使うような大規模な節税には二の足を踏むと思うんです。もう少し簡単な対策ってなにかありませんか?
北井 そうですね。たとえば相続開始前に「相続財産と見なされないもの」を買っておくのはどうでしょう? たとえば仏壇を持っていないなら購入しておく、お墓がまだないなら墓地や墓石を用意しておくと、その費用分が相続財産から目減りするので、相続税の節税につながりますよ。
相子 へー。仏壇はお値段が張りますし、お墓も平均100万~200万円くらいするから、ある程度まとまった額の相続税対策ができそうですね。
相続放棄してもお墓は相続できる?
親の借金が非常に多いときなどには、相続放棄することで、相続人である子供は借金を引き継がずにすみます。相続放棄を選択すると借金だけでなく、自宅などすべての財産を相続できなくなりますが、お墓や仏壇などいわゆる「祭祀に使う財産」は例外として相続することが認められています。
農地の場合は実質、無税で相続できることも
相子 そういえば父方のお墓を管理している本家は農家なんですけど、農地や山林って広いから、相続も大変そうですね。
北井 それぞれ相続がうまくいかないと、地域社会にも大きな影響が出るので、さまざまな優遇措置が設けられています。農地の場合には実質、無税で相続できることも少なくありません。
相子 相続税が課税されないのですか?
北井 相続人が農業を続ける場合には納税が猶予され、免除される条件は農地の種類によって異なります。農地を放棄する人が増えると困るので、そういう制度が設けられているのです。
相子 相続税の問題はクリアできそうですけど、兄弟姉妹など農地を相続する人以外の相続人がいる場合には、円満な相続が難しそうですね。
北井 そのとおりです。農家の場合、相続財産の大半が農地というケースが多いので、農地を相続しない相続人への配慮が欠かせません。生命保険を利用して、「農業を継がない子供は保険金を受け取れるようにする」などの対策が必須です。
相子 ほかにも注意点はありますか?
北井 農地の名義変更は許可制となっています。売却するときなどは農業委員会または都道府県知事の許可が必要なのですが、相続の場合は不要です。ただし名義変更の届け出は必要とされており、相続開始から10か月以内に届け出を行うよう定められています。怠ると10万円以下の罰金を科されることがあります。
相子 山林にも農地と同じように特別な制度があるのですか?
北井 山林はまず立地によって「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3種類に分けられ、それぞれ相続財産としての評価方法が異なります。
相子 それぞれどのような場所にある山林なのでしょう?
北井 市街化区域外にあるのが「純山林」、市街地近郊にあるのが「中間山林」、市街化区域内にあるのが「市街地山林」です。「純山林」と「中間山林」は固定資産税評価額に一定の倍率をかけて相続財産としての価額を評価します。「市街地山林」は「宅地に造成したらいくらになるか」を基準に評価されます。
相子 木が生えている場合、その分は評価されないのですか?
北井 いいところに気づきましたね。立木は財産ですので、もちろん相続税評価額に算入します。さまざまな事情を勘案しなくてはいけないので、計算はかなり大変です。
農地による評価の違い
● 純山林(倍率方式)
郊外や山間部など、宅地価額の影響を受けていない山林。固定資産税評価額に国税局の定める倍率をかけた金額で評価される(固定資産税評価額×倍率)
● 中間山林(倍率方式)
市街地近郊にあり純山林より売買価格が高い。固定資産税評価額に国税局の定める倍率をかけた金額で評価される(固定資産税評価額×倍率)
● 市街地山林(宅地比準方式)
市街地にある山林。その山林を宅地とした場合の1㎡あたりの価額から宅地造成に必要な費用を引いた金額で評価される(宅地評価額-宅地造成費)