前回は、任意売却を選択すると債務はどうなるのかを解説しました。今回は、銀行から債権回収会社へ債権が移ると債務者がラクになる理由を見ていきます。

支払えなくなったら「支払わない」選択肢もある

1000万円の残債を月々1万円ずつ返済しても、完済は不可能です。無利息なら83年かければ完済できますが、35歳で返済を始めた場合、完済時には118歳です。無理のない額ではありますが、一生かけて支払うと考えると、恐ろしくなってきます。年金生活に入れば収入はさらに減るでしょうし、病気になれば1万円の負担も賄いきれなくなるかもしれません。

 

将来に対するこういった不安は実はあまり必要ありません。支払えなくなった場合には「支払わない」という選択肢もあるからです。事情が変わり、支払いが難しくなったときには、金融機関に対してその旨を伝えると、「支払い停止」という措置をとってもらうことができます。

 

ただし、支払えないからといって金融機関からの連絡を無視するのはNGです。あくまで誠意のある対応が重要なので、支払えなくなったときにはなるべく早めに連絡し、残債をどうするのかを協議する必要があります。

現在の債権回収会社は健全な企業がほとんど

金融機関との付き合い方についてここまで解説してきましたが、実際には数年で交渉の窓口は変わってしまいます。少額の支払いを毎月管理するのは金融機関側も手間がかかりたいへんです。そこで「不良債権」として別の会社に売却してしまうのが、金融機関の一般的な対応なのです。

 

不良債権を買い取る会社は「サービサー」と呼ばれます。「返済に行き詰まった債権を買い取る」という業務の内容からは一見怪しげに見えるかもしれませんが、実際には法務大臣の認可を受けて債権の回収を行う企業です。

 

もともと債権回収業務は弁護士もしくは弁護士法人のみに認められる特殊な仕事でした。バブル崩壊後、急増した不良債権の処理を弁護士や弁護士法人だけでは賄いきれなくなったため、1999年に「債権管理回収業に関する特別措置法」が施行され、弁護士法の特例としてサービサーの設立が認められたのです。

 

債権回収というと、一昔前は暴力団などの反社会的勢力に類する人が関わっていると考えられていましたが、同法では暴力団等反社会的勢力を排除するための仕組みが盛り込まれています。現在活動しているサービサーは健全な企業ばかりであり、金融機関からサービサーに債権が譲渡されたからといって、債務者が不安に感じるような「強硬な取り立て」などが行われることはありません。

 

返済不能に陥った債権は額面の2%程度で売却されることが多く、1000万円の残債であれば20万円ほどです。それ以上回収できればサービサーは黒字になるので、強硬な取り立てを行う必要がないのです。

 

私もときどき任意売却を完了した依頼者から、数年後に「債権を譲渡したという通知が来ました」という問い合わせを受けることがあります。銀行などの金融機関や保証会社が債権の保有者である場合には安心感がありますが、聞いたこともない社名のサービサーから「債権の譲渡を受けた」という通知が来れば、不安に思うのは当然でしょう。

 

私はそんなときにはいつも「よかったですね」と開口一番お伝えしています。サービサーに債権が移ったということは、回収のモチベーションがより低い会社が窓口になったということです。返済方法についてもより柔軟に対応してくれる可能性が高いので、債務者にとって債権の譲渡はメリットの大きい出来事なのです。

本連載は、2017年2月13日刊行の書籍『住宅ローンが払えなくなったら読む本』(幻冬舎メディアコンサルティング)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

住宅ローンが払えなくなったら読む本

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著者 矢田 倫基   監修 矢田 明日香

幻冬舎メディアコンサルティング

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