前回は、株価を効果的に引き下げ、事業承継をスムーズに行う方法を見てきました。今回は、法人保険を活用して会社に利益を残すためのポイントについて考えてみましょう。

経費算入=「節税ができる」ではない

法人契約で生命保険に加入するメリットは、保険料を経費算入できるということにつきます。しかし、経費に算入できることは「節税ができる」こととイコールではない点に注意しなければなりません。確かに、保険料を支払った時点では、経費に計上できるので、その分、利益が減って、納税額は減るかもしれません。ところが、10年後、20年後になって「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねないのです。

 

法人契約の生命保険は、保険の種類によって保険料の全額から2分の1を経費に計上できます。仮に年間300万円の保険料を支払ったとして、その2分の1を経費に計上できれば、150万円分の利益を圧縮できたことになります。その年の法人税は、納税を少なくすることができます。

 

しかし、支払った保険料は消えてしまったわけではありません。そもそも消えてしまうようなものに保険料を支払うのは意味がありません。支払った保険料は、保険という形でプールされているにすぎません。いつかは満期保険金や解約返戻金という形で受け取ることになるのです。

 

では、満期保険金や解約返戻金を受け取るときには、どうなるのでしょうか? それらは、資産として計上した部分を除き、利益として計上することになります。つまり、法人税の対象となるのです。保険料を支払うときは経費として計上できたとしても、受け取るときに課税対象となってしまえば、税金を支払う時期が遅くなっただけで、大きな節税にはなっていません。

 

受け取るときに課税対象とならないためには、あがった利益以上に経費を使う必要があります。その手段としては、会社の設備投資に資金を使ったり、役員の退職金を支払ったりする方法があります。しかし、満期保険金は受け取る時期が決まっていますし、解約返戻金も受取額がピークになる時期は限られています。つまり、受け取る時期の調整はあまりできないのです。ですから、保険加入の時点で、満期保険金や解約返戻金の受け取り時期と資金の使い道を確定しておかなければなりません。

生命保険加入のメリットを最大限活用できているか?

オーナー経営者にとって、経営の安定化は大きな課題です。自社の問題だけであれば、企業努力によって乗り越えられる面はありますが、企業の業績は外部環境にも大きく左右されます。景気が悪ければ商品やサービスは売れにくくなりますし、消費税率の引き上げなど、政府の政策によって需要が落ち込むこともあります。

 

今は利益が出ていても、いつ赤字に転落するかわからないという心配を常に抱えているのです。安定しない会社の利益を安定化する一つの方法が生命保険の活用です。多くのオーナー経営者が生命保険に加入していますが、そのメリットを最大限に活用していないケースが大半です。

 

大きな理由は、営業マンの勧めるままに加入してしまうケースが多いことです。目的がはっきりしないまま「なんとなく節税になりそうだから」と、加入してしまうのです。個人では、家計見直しの一環として保険の見直しは人気がありますが、オーナー経営者の場合には、いったん加入してしまうと見直しが行われないのも大きな問題です。高額な保険料を支払いながら、それがムダになっているケースが少なくありません。

 

オーナー経営者がもっと意識的に生命保険を活用すれば、会社の利益を保険という形でプールして、将来、赤字になった場合にその利益を取り崩すこともできます。また、保険で従業員の福利厚生を充実させて、同時に会社もメリットを受けることもできます。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

財を「残す」技術

齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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