2045年に人工知能は人間の知性を超える!?
膨らみ続ける消費者の期待に、供給者側はどのように応えていけばよいのだろうか? そのヒントがビッグデータと人工知能系技術の中にある。人工知能の概念や研究は、コンピュータが発明される以前から存在していた。しかし、初期の人工知能は現在のように注目されることはなかった。巨大なコンピュータに専門家が専門的な知識を入力し利用していた。まだ、コンピュータもネットワークにはつながっていなかった。現在、人工知能が注目を集めるその背景には、ヒト、モノがネットワークでつながりビッグデータが利用できるようになったことと、それを役立てるための統計的なモデル手法が結びつくことによって、人工知能の可能性が無限に広がったことがある。
ところで、人工知能と合わせて議論されるキーワードがシンギュラリティー(技術的特異値)問題だ。コンピュータが進化することによって人間の知能・知性を超える特異値点が将来訪れるだろうというものだ。2005年にアメリカの発明家レイ・カーツワイルが記した『シンギュラリティは近い──人類が生命を超越するとき』([エッセンス版]、監訳井上健、NHK出版、2016)で指摘された。その時期は2045年ごろと予測されたことから盛んに話題になった言葉でもある。実際に人類の知性を超えるかどうか様々な議論があるが、人工知能などの発達によって私たちの仕事のスタイルが大きく変わることは間違いない。
人工知能で置き換えることができない分野とは・・・
『人工知能と経済の未来』(井上智洋著、文春新書、2016)によれば、今後人工知能が発達することによって、多くの仕事がコンピュータに置き換わると指摘される中、次の三つの分野については依然として人間でなければできない仕事、人工知能では置き換えることのできない分野であると指摘している。
・クリエイティビティ系
・マネジメント系
・ホスピタリティー系
クリエイティビティ系は創造的で新しい価値を生み出し、マネジメント系は顧客、働く人、株主など利害関係者の利益を考慮しビジョンを掲げて経営し、ホスピタリティーは人の心の機微を理解しもてなす仕事と言い換えることができる。
これらの三つの分野が相互に関係し必要とされる業態といえば小売業をはじめとするリアル店舗の経営企画部門、マーケティング部門である。ただし、これまでの個人の経験を超え、組織の暗黙知を統合し顧客に対して深い理解と提案力とそれに基づいた需要を作り出す作業を人間と人工知能とが協力し合いながら実施していくことになる。この第三次流通革命では人工知能を活用して顧客の理解を基に継続的な接点と価値を提供し続けることができたところが顧客から支持される企業となる。
そして顧客から支持される店舗・商業施設・オペレーションをデザインするうえで注目されているのが「集合知」である。多くの人々の行動、思いや願いを集めて形にするためのヒントを提供してくれるのがこの「集合知」である。IoTの時代、「集合知」を利用したマーケティングを小売業は積極的に採用しながら新しい消費体験や出会いを創造していくことになる。