生活者の視点からのイノベーション
いま、流通業は第三次流通革命の真っただ中であり、それは「生活者の視点からのイノベーション」であると指摘するのは学習院大学の上田隆穂教授だ(『生活者視点で変わる小売業の未来─希望が買う気を呼び起こす商圏マネジメントの重要性』宣伝会議、2016年)。
同書によれば、1950年代に発明普及するチェーンオペレーション、セルフサービス、ワンストップ・ショッピングを「組織化のイノベーション」と位置づけ、「第一次流通革命」と名付けている。1980年代のPOSシステムの導入と普及は「第二次流通革命」であり「情報化のイノベーション」として定義している。POSシステムの普及で迅速に量の把握ができるようになった。量の把握とマス媒体の充実により、顧客理解は性別・年齢(世代別)の切り口で大成功した。
1950年代の第一次流通革命、1980年代の第二次流通革命との間には30年の隔たりがあった。次の第三次流通革命は1980年から30年後の2010年以降であると上田隆穂教授は述べている。
供給者サイドから消費者サイドへ主導権が移行
これまで、需要を定義し、つくるのはメーカー、卸、小売りなど供給者サイドであり、主導権は供給者側にあった。しかし、2010年以降の第三次流通革命は、消費者サイドが市場を定義する主役としてその存在感が日に日に増している。顧客のほうが店員より商品に詳しいといった現象は日常的に目撃するようになった。プロシューマーがブログやソーシャルネットで商品・サービスを評価し紹介する。プロシューマーとはproducer(生産者)とconsumer(消費者)との両方の顔を持つ新しい消費者像で、未来学者アルビン・トフラーが『第三の波』(徳岡孝夫訳、中公文庫、1982)で予言したものだ。そのプロシューマーが勢いを増しながら既成の消費者像を書き換えている。
インターネット、ソーシャルメディアで情報武装し選択権を持つのは消費者のほうだ。品物がなければ黙って別の店に行く。対応が悪ければソーシャルネットで悪い評価が拡散される。個人個人から発信された、よい評価も悪い評価も瞬く間に拡散する。その情報武装を支援しているのがGoogle やAmazon、Facebook などの人工知能技術を駆使した企業群だ。これらの企業は膨大な情報の中から一人ひとりの興味関心に基づいて様々なレコメンドを提供している。
「あなたがご覧になった商品を買った人はこんな商品も買っています」
これらのレコメンド(推奨)は人々の行動履歴のデータに基づいて作られている。世界中の人々が生成する膨大なデータ、買い物履歴やつぶやき、アップロードするコメント、写真、イラスト、動画は機械学習や深層学習と呼ばれる人工知能系の技術によって個々の消費者に向けた提案へと加工されていく。このような提案に慣れてくると、私たちの消費に対する満足度とその期待値は日々増幅されていくこととなる。