「4P」から「4C」へ、見方を180度転換
20世紀型マーケティングの発想は1960年代前半にジェローム・マッカーシーが提唱した4つのPに象徴される。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)の4つのことばの頭文字から4Pと呼ばれている。この4Pはマーケティングの教科書でよく紹介されているマーケティングモデルである。4Pにおける主語はメーカーであり企業である供給者側である。供給者サイドの定義で市場と顧客は制御することができる、コントロールすることができるという発想だ。この考え方は現在でもメーカーやファッション業界では顕著だ。流行は私たちがつくる。ブームは私たちが生み出す。ところが、いくら意気込んでも、情報武装し多様なライフスタイルの消費者は笛を吹いてもそう簡単には踊らなくなった。
20世紀型のマーケティングはよく大砲を撃つようなマーケティングと言われる。狙いを定め、弾を発射し、弾がどこに着弾したかを確認し、そのあともう一度狙いを定めて撃つ。フィードバックは着弾してから砲手に伝えられ、角度が再度設定され目標物めがけて発射される。一度撃ち放たれた弾はコントロールすることができない。そのため命中精度は低く大量に砲弾を使用した。
1990年代になると、アメリカの経済学者ロバート・ラウターボーンが提唱した4Cが注目されるようになる。供給者視点の4Pではなく、その正反対の顧客視点からのマーケティングアプローチが再定義された。顧客にとっての価値(Customer Value)、顧客にとってのコスト(Cost)、顧客にとっての利便性(Convenience) 、顧客とのコミュニケーション(Communication)という顧客視点、需要者視点のマーケティングの枠組みだ。
供給者視点で組み立てられる4Pのマーケティングと、顧客視点の4Cのマーケティングであれば手間とコストがかかるのは4Cのほうだ。こちらのマーケティング手法は精密誘導ミサイルのようなマーケティングとしてたとえられる。目標を追跡し軌道を修正しながら目標を捉える。移動するターゲットを追尾することができる。精密誘導ミサイルは大砲の弾に比べると一発当たりのコストがかかる。
劇的に下がったデータの収集コスト
20世紀型マーケティングがまだ成立していた時代、顧客を理解するためのデータはほとんどなく、あったとしてもそれを取得するためのコストは高かった。そのため顧客理解にデータを駆使する動機は乏しかった。顧客を理解するためのコストをかけるぐらいなら販促・プロモーションをせよ!というのが20世紀型マーケティングの考え方だ。マーケティングとはすなわち販売促進であると短絡的に理解しても間違いはなかった。
かつて、商圏調査といえば役所に市区町村レベルの人口統計を探しに行き、ノートに書き写し、事務所に帰ってきてから表計算ソフトに入力・集計して、その結果をクライアントに報告すれば報酬が得られた。現在では市区町村レベルの人口統計は総務省のホームページから無料でダウンロードすることができる。ウィキペディアで市区町村名を検索すれば男女別の人口ピラミッド情報は無料で手に入る。
データがあふれる時代、マーケティングにおけるデータ収集のコストが劇的に下がった分、そのデータを読み解くことへの情熱と投資がクローズアップされるようになった。ビッグデータ、データサイエンスのキーワードが注目されるのもそうした時代背景があるからだ。現在、マーケティングデータ分析技術のなかで注目されるテーマは「人間の理解」であり、小売・流通業にとっては「顧客」の理解となる。いま来ている「顧客」を理解することによって、まだ来ていない「顧客」を理解することができる。自社の「顧客」を理解することによって競合他社の「顧客」をも理解することができる、というわけだ。