「獲得的地位」も求められるファミリービジネスの後継者

前回は、ファミリービジネスの後継者の生得的地位について取り上げました。今回は、後継者の獲得的地位について考えていきます。

経営者に昇格するための経営能力・経験の蓄積

前回取り上げた「生得的地位」とは、生まれながらにして得た地位のことでした。他方、「獲得的地位」とは、自分で築き上げてきた実績に基づく地位のことです。生得的地位との大きな違いは、「自分の能力によって後天的に構築される地位」であるという点です。

 

では、後継者が獲得的地位を構築することは、ファミリービジネスの事業承継においてどのような効果があるのでしょうか。ここでは、二つの効果を指摘しておきたいと思います。

 

第一に、後継者が次期経営者に昇格するために必要な経営能力や経験の蓄積を促進させる効果です。前回取り上げた生得的地位とは、後継者が能力や実績がなくても、言い換えれば何の努力もせずとも、生来的に獲得していた地位のことでした。

 

他方、ファミリービジネスの後継者は、将来企業の舵取りをしていかねばならない重責があります。後継者がたんに先代経営者の経営実践も模倣しているだけでは、経営環境の変化に適応できません。そのため、後継者は、先代経営者からの承継プロセスを通じて、様々な経営管理にかかわる経験を積み、将来の経営者の任に耐えうる思考力と行動力を磨いていく必要があります。後継者に獲得的地位を構築させることは、ファミリービジネスの事業承継における重要な達成目標となるのです。

先代世代の従業員、顧客等に受け入れられる下地の形成

後継者の獲得的地位の構築がもつ第二の効果が、次期経営者として先代世代の従業員または顧客・取引先から受入れられる下地を形成することです。とりわけこの効果は、後継者の生得的地位のもつ欠点を埋めてくれる可能性があります。

 

事業承継の古典的研究であるクリステンセンの研究によれば、後継者は自分自身で自分の能力を他の経営幹部に証明し、経営幹部からの信頼を勝ち得ていかねばならないと指摘しています。確かに、後継者の生得的地位とは、将来の経営者であるというメッセージを従業員や顧客・取引先にたいして暗黙的に発する効果があります。

 

他方、実績や能力が伴わない場合、後継者は従業員から受入れられません。また、顧客や仕入先との取引においても、次期経営者として信認を得ることができないかもしれません。後継者は、自分の能力や実績を示すことによって、いわば獲得的地位を構築することによって、組織の内部あるいは外部から信認(受容)される可能性が高まります。また、これによって、後継者は将来経営者として十分なリーダーシップを発揮しやすくなるでしょう。

 

それだけではありません。クリステンセンの研究によると、先代経営者は後継者をファミリービジネスに迎え入れることはできるものの、後継者を組織に受容させることまではできないとも指摘しています。この獲得的地位の構築については、先代経営者のサポートだけでは限界があるということです。後継者自身の試行錯誤や創意工夫行動などのいわば能動的な取り組みによって、実績や能力が蓄積される必要があることを示しています。

 

ファミリービジネスの事業承継においては、後継者の獲得的地位を構築させることが重要な課題となります。では、ファミリービジネスの事業承継を通じてどのように後継者の獲得的地位を構築させていくのでしょうか。この問いについては、今後の連載で詳細に答えていくことにしましょう。

 

【図表】獲得的地位が生得的地位の弱点を補完

出所:落合(2016)の図表8-6(181頁)を参照の上、筆者作成。
出所:落合(2016)の図表8-6(181頁)を参照の上、筆者作成。

 

 

<参考文献>
Christensen, C. R.(1953)Management Succession in Small and Growing Enterprises. Harvard Business Press.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
Linton, R.(1936)The Study of Man, APPLETON-CENTURY-CROFTS, INC.

 

静岡県立大学大学院 経営情報イノベーション研究科 教授
事業承継学会常務理事
ファミリービジネス学会常任理事
 

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。

大和証券株式会社入社後、本社人事部にて労務管理業務、大和証券SMBC金融法人部にて機関投資家に対するRM業務を担当。その後、研究者に身を転じ、2014年から日本経済大学、2018年より静岡県立大学に着任。

現在は、企業の事業承継問題について経営学の観点から研究を行う。静岡県立大学での研究教育活動を軸に、名古屋商科大学ビジネススクールや早稲田大学ビジネススクール等で事業承継講座(ケースメソッド)を担当するほか、行政機関主催の事業承継セミナーを担当するなど、後継者教育に力を注いでいる。

2015年には日本で初めてのファミリービジネスの実証研究書となる『ファミリービジネス白書2015年度版』を同友館から、2018年には『ファミリービジネス白書2018年度版』を白桃書房から刊行。同書の刊行時より企画編集委員長をつとめる。主な著書に『事業承継のジレンマ』『事業承継の経営学』(以上、白桃書房)など多数。

著者紹介

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が…

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