今回は、空き家保有で発生するリスクについて見ていきます。※本連載は、一般社団法人 大阪府不動産コンサルティング協会(会長・米田淳氏、理事・井勢敦史氏・岡原隆裕氏、会員・芳本雄介氏/他)の編著、『空き家管理マニュアル』(建築資料研究社)の中から一部を抜粋し、近年深刻化する空き家問題について、その「管理」の具体的なポイントをご紹介します。

空き家は近隣住民にとって「危険な存在」

空き家を管理せずに放置しておくと、様々なリスクが発生します。ここでは、空き家を保有することによる所有者リスクと、空き家管理業務を行う事業者のリスクについて説明します。

 

(1)空き家保有のリスク

①外部不経済と所有者責任(工作物責任)

相続等を契機に遠方に居住する空き家所有者や相続人不明の空き家が増加していることなどを背景に適正な管理がされず、空き家周辺に外部不経済をもたらす状況が発生しています。空き家発生による外部不経済の事象には、次のようなものがあり、空き家は近隣住民にとって、「大きな迷惑」だけでなく「危険な存在」になっています。

 

●地域景観の悪化

●害虫の発生、野良猫

●野良犬などの集中、不法投棄などによる生活環境の悪化

●雑草の繁茂、落ち葉の飛散、植栽の越境・建物や塀等の倒壊、屋根材

●外壁材等の飛散・落下

●隣接地への草の侵入や樹枝の越境

●火災の発生

●犯罪の発生

●誘発

●不審者の不法滞在

●ポスト(郵便受け)の悪用

 

このような適正な管理がなされていない空き家が地域にもたらす外部不経済に対して、直接被害が及ぶ近隣住民の関心は高いものの、肝心の所有者の問題意識が低い傾向にあります。

 

しかし、外部不経済による近隣への悪影響に止まらず、所有者には工作物責任(民法717条)が及ぶことになり、空き家所有者は、建物の崩壊など工作物に起因する事故で、工作物の設置または保存に瑕疵(かし)がある場合、自己に過失がなくても責任を負わねばなりません(無過失責任)。

 

[図表1]所有者と占有者の工作物責任

 

【民法】(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

 

2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

 

3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

火災、倒壊…空き家の損害賠償責任は直接所有者へ

空き家所有者は、このような大きなリスクを抱えているにもかかわらず、保険会社は、その損害賠償責任を担保する保険の引き受けをしない傾向にあり、賠償責任保険が付保されていない場合、損害賠償責任は直接所有者に及びます。また、空き家が共有である場合は、共有者全員が連帯してその責任を負わなければなりません。

 

公益財団法人日本住宅総合センターが国土交通省住宅局住宅総合整備課住環境整備室の提案により、平成24年度プロジェクトとして実施した「空き家の発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」では、空き家発生による外部不経済の損害額について、次の4つの想定するケースで試算がされています。

 

[図表2]空き家の発生による外部不経済の実態と損害額の試算

(公益財団法人日本住宅総合センターホームページhttps://www.hrf.or.jp/index.html 掲載データを編集)
(公益財団法人日本住宅総合センターホームページhttps://www.hrf.or.jp/index.html 掲載データを編集)

 

これら想定の試算のうち、Aの火災による隣接家屋の全焼・死亡事故は、失火責任法により「重過失がある場合のみ損害賠償責任を負い、軽過失による失火の場合は損害賠償責任を負わない」と、されます。しかし、工作物責任(土地の工作物の瑕疵から火災が発生した場合)との関係は、最高裁判例が存在しておらず、裁判例でも立場が分かれており、損害賠償責任を負うことになる可能性があります。

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    本連載は、2017年1月15日刊行の書籍『空き家管理マニュアル』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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