今回は、近隣関係、家財、個人情報など、空き家を預かる際の留意点について見ていきます。※本連載は、一般社団法人 大阪府不動産コンサルティング協会(会長・米田淳氏、理事・井勢敦史氏・岡原隆裕氏、会員・芳本雄介氏/他)の編著、『空き家管理マニュアル』(建築資料研究社)の中から一部を抜粋し、近年深刻化する空き家問題について、その「管理」の具体的なポイントをご紹介します。
隣接地居住者の感情などにも、十分な配慮を
前回に引き続き、空き家・建物のチェックポイント、関連サービス、保険など、空き家管理固有のポイントを見ていきます。
⑤近隣との関係
近隣とのトラブルの有無を確認します。管理業務を受託する以前から近隣とのトラブルを抱えており、その内容について相手方と交渉した場合、非弁行為にあたる恐れがありますので注意します。
空き家管理をしたからといって、近隣の居住者が迷惑をこうむっていると感じている事柄を完全に解消できるわけではありません。しかし、空き家管理において隣接地の敷地内への立ち入り許可が必要になることや敷地境界の確認を求めることなど、隣接地居住者との関係は、所有者の利益に影響を及ぼすことがありますので、管理事業者の行為で、隣接地居住者の感情に悪影響を及ぼさないよう注意することが大切です。
また、近隣居住者からの情報や目が、空き家管理の助けになる可能性が大きいため、配慮が必要です。空き家管理を開始する時に、挨拶や案内文を届けるなど、空き家管理をしていることや緊急時の連絡先などを知らせておきます。
⑥家財、荷物・貴重品
空き家の管理事業者は、原則として荷物・貴重品の紛失には対応できませんので、空き家である建物内に荷物や貴重品を置かないことが基本です。
ただし、荷物などを建物内に保管しなければならない場合は、Ⓐそれらについて別に警備を依頼するよう勧める、Ⓑ建物内部に立ち入る管理はしない、Ⓒ建物内部に立ち入る場合は、家財や荷物などの紛失や毀損について免責にする、Ⓓ家財や荷物などの紛失や毀損に対する管理事業者の損害賠償責任を補償する保険に加入する、などの対処をする必要があります。また、建物内にある家財や荷物などの写真や一覧表を互いに確認して保管しておくことも必要です。
⑦ガス、通電と通水
空き家では、通常、ガス供給を行わずに閉栓し、プロパンガスであればガスボンベを取り外します。
電気や水道については、管理上の必要性や受託する管理業務の内容によって通電、通水するか使用中止の届け出をするかを決めます。使用する水量がトラップの封水程度であれば、給水の使用を中止していても管理巡回時に水を持参することで対処できますが、散水や清掃のように多くの水を使う必要がある場合は使用を中止できません。また、空き家の状態でも電気の供給が必要な設備がある場合は、通電しておくことになります。
なお、通電、通水には、漏電や漏水のリスクが伴いますので、その場合の取り決めをしておくことが必要です。
(注)凍結による管や器具の破損の恐れがある場合、「冬季のみ閉栓して水抜き処置を施しておく」というような水道管理方法もあります。
物置に入れられている物品等は、管理業務の対象外
⑧物置
庭や路地に物置が設置されていることが多く見受けられます。物置については、その個数を確認しておくようにしますが、物置に入れられている物品等については、管理業務の対象にしないのが基本です。
ただし、依頼者の了解を得て、管理事業者の掃除道具などの保管場所とする場合は、依頼者の物品等が無い状態で使用させてもらうことが望ましいでしょう。
⑨個人情報の取り扱い
空き家の管理業務を実施するにあたっては、個人情報の保護に関する法律に従い、管理契約に関して依頼者から知った個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。
なお、空き家管理では地域との連携が必要な場面が想定されることから、例えば、「空き家管理上、警察(交番)・消防、自治会、近隣、市町村(空き家対策窓口)などとの連携において不可欠な場合は、必要な範囲で個人情報の開示、提供することを認める。」といった内容の規定を設けておくことも有益です。
また、管理の実務において、第三者から空き家所有者等の連絡先を尋ねられた場合は、その者に連絡先を教えずその旨を所有者等に報告し、連絡の要否は所有者等に判断を委ねることが必要です。
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 会長
大丸ハウス株式会社 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、二級建築士
大阪大学基礎工学部卒。きりう不動産信託株式会社顧問、一般社団法人全国不動産コンサルティング協会専務理事、一般社団法人全国空き家相談士協会専務理事。平成27年12月より大阪市空家等対策協議会委員。
【主な著書・寄稿等】
著書:『新・不動産信託の活用術』(住宅新報社、2008年)、『不動産の信託』(共著、住宅新報社、2005年)
寄稿:『地代・家賃と借地借家』(住宅新報社、2014年)、『事例でわかる!コンサルティングによる不動産ビジネス』(週刊住宅新聞社、2012年)
解説・監修:『不動産コンサル過去問題集』(住宅新報社、2006年~2017年毎年)、事例提供/『居住福祉産業への挑戦』(東信堂、2013年)、『実例にみる信託の法務・税務と契約書式』(日本加除出版、2011年)など
著者プロフィール詳細
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連載空き家820万戸時代が到来――空き家を持つ人のための管理マニュアル
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 理事
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、公認ホームインスペクター、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、木材アドバイザー
司法書士事務所・不動産コンサルティング会社を経て、現在「住生活コンサルタント」として活躍。
誰もが安全・安心・健康で快適な住生活を営むことができる環境形成を目指し、不動産流通市場の透明化に関する仕組みづくりや地域の活性化、空き家問題などに精力的に取り組む。
また「第三者の立場」で消費者向け、事業者向けの講演・研修・コンサルティングで全国を飛び回る傍ら、業界紙等への執筆も行う。
現在、「新建ハウジングプラスワン」において「小さな工務店のストックビジネス最前線」を連載中。
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連載空き家820万戸時代が到来――空き家を持つ人のための管理マニュアル
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 理事
株式会社つばさ資産パートナーズ 代表取締役
公認不動産業務コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士、CPM®(米国不動産経営管理士)、賃貸不動産経営管理士
立命館大学法学部法律学科卒。不動産相続コンサルティングを皮切りに、不動産業務、相続サポート業務を行っている。相続に強い専門家ネットワークを構築しているのも強み。
空き家解消の取組みとして一括賃料前払いサブリース方式を使い、空き家活用や空き家の買取り、デザイナーズ戸建賃貸を新築する投資事業などにも取り組んでいる。不動産オーナー向け勉強会「つばさ資産塾」を主宰。
【講演歴】クレオ大阪西(大阪市立男女共同参画センター)、大阪市立住まい情報センター、岡山リビング新聞社、ほか多数。
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連載空き家820万戸時代が到来――空き家を持つ人のための管理マニュアル
一般社団法人大阪府不動産コンサルティング協会 会員
株式会社プロブレーン 代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士、二級ファイナンシャル・プランニング技能士
「思いを築く不動産のCreative Company」をモットーとし、モノだけではなくお客様の思いにもフォーカスし不動産の困りごとを解決します。心豊かな暮らしを育むために和やかに家系学を学ぶ、「幸運を拓く 家族の法則」講座を主催。
【得意分野】①コンサルティング事業(不動産運用、賃貸経営、空き家、相続、信託、債務整理)②不動産再生事業(空き家の借上、老朽アパートの引取り、借地権付建物の引取り)③仲介事業・売買事業(土地、住宅、収益マンション、収益ビルの仲介・売買)
【寄稿】『地代・家賃と借地借家』(住宅新報社、2014年)、『事例でわかる!コンサルティングによる不動産ビジネス』(週刊住宅新聞社、2012年)
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