空き家管理の目的は近隣への迷惑防止・危険防止
空き家管理は、賃貸不動産管理の一部である建物管理と同様に考えられがちです。しかし、空き家管理は、近隣への迷惑防止や危険防止を主たる目的とするなど、賃貸不動産の建物管理とは異なる点も多く、空き家管理を独立したジャンルに位置付ける必要があります。
ここでは、空き家管理を受託するところから、空き家・建物のチェックポイント、関連サービス、保険など、空き家管理固有のポイントを整理して解説します。
(1)受託時の確認項目
①契約の依頼者
空き家管理業務において実施する業務は、建物の状態の確認や清掃、補修、植栽の手入れなどが主で、基本的には、民法の「保存行為(財産の現状を維持する行為)」になります。中には、修繕によって財産の価値を高めたり、空き家管理の周辺事業として建物や駐車場を賃貸したりするケースがありますが、これらは「管理行為(性質を変えない範囲内においての利用又は改良)」になります。
空き家管理においては、依頼者が必ずしも所有者でないケースや、遠隔地から依頼を受けるケースがあるため、依頼者が受託する管理業務の内容について、契約の相手方となる権限のある者であることを確認する必要があります。依頼者と空き家管理等の内容に関する権限の有無については、図表を用いて確認することができます。
[図表]空き家管理等の内容に関する権限の有無
「保存行為」限定の管理なら共有者一人との契約で可能
ⅰ)所有者(図表-6のa)
契約の依頼者は、原則として対象となる空き家の所有者でなければなりません。所有者は、法務局の不動産登記情報で確認できます。なお、登記上の所有者と真の所有者が異なる場合、その理由を確認し、証明になる書類などを残しておきます。
ⅱ)共有者の一人(図表-6のbとc)
「保存行為」は共有者の一人が単独でできることから、「保存行為」に限定した空き家管理は、持ち分の価格にかかわらず、共有者の一人が依頼者として契約できます。しかし、業務内容が「管理行為」に及ぶ場合、持ち分の過半数の賛成が必要になります。なお、「処分行為」をするためには、共有者全員の合意が必要です。
ⅲ)共同相続人の一人(図表-6のbとc)
持ち分の価格が過半数でない共同相続人は、前述ⅱ)の共有者と同様に「保存行為」を単独でできることから、「保存行為」に限定した空き家管理は、相続分の価格にかかわらず、共同相続人が依頼者として契約できます。しかし、業務内容が「管理行為」に及ぶ場合、相続分の過半数の賛成が必要になります。また、「処分行為」については、前述ⅱ)と同じように、共同相続人全員の合意が必要です。
ⅳ)代理人(図表-6のdからf)
所有者の代理人は、所有者を代理して管理契約の依頼者になることができます。なお、代理権限の定めがない場合であっても、代理する空き家管理が保存行為や管理行為であれば法律上の問題はありません。また、前述ⅱ)の共有者やⅲ)の法定相続人の代理人は、本人の権限の範囲内で、空き家管理の契約の相手方になることができます。
空き家で迷惑している側は管理契約の相手方になれない
ⅴ)後見人(図表-6のdからf)
所有者の後見人は、所有者と同様に管理契約の依頼者になることができます。ただし、居住用不動産(居住していた不動産を含みます。)の処分行為をする必要がある場合には、事前に、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申し立てをして、その許可を得る必要があります。また、前述ⅱ)の共有者やⅲ)の法定相続人の後見人は、空き家管理の契約の相手方になれますが、その内容は被後見人の権限の範囲内に限定されます。
ⅵ)認知症等で意思能力を欠く人(図表-6のg)
所有者(共有者や共同相続人を含みます。)が法律行為を有効に行う場合には、自分の行為の結果を判断できる判断能力・精神能力が必要になります。この判断能力・精神能力は、意思能力と呼ばれており、意思能力を欠く人が行なった法律行為は、無効とされています。
ⅶ)所有者の配偶者や子などの親族(図表-6のh)
依頼者が所有者の親族である場合、その親族が所有者の代理人や後見人でなければ、契約の相手方にはなれません。所有者本人が重度の認知症で契約ができずかつ成年後見人が不在である場合、やむを得ず所有者名義で契約をしたり、無権代理行為をしたりするケースもあるようですが、原則として成年後見制度を利用しなければ契約の相手方にはなれません。
ⅷ)近隣住民や自治会
近隣住民や自治会など空き家によって迷惑を被っている人たちは、たとえ自ら空き家管理費用を負担したとしても、保存行為などを伴う空き家管理契約の相手方になることはできません。