銘柄の特性によって選別・構成された指数の総称
最近では、市場全体を代表する従来型の指数(インデックス)ではなく、さらに特定の特徴を指数化したものが増えています。日本株式でいえば、従来からある日経平均株価指数やTOPIXだけでなく、ROE(自己資本利益率)の水準など企業価値を中心に構成される「JPX日経400指数」、高配当株式を指数化した「MSCIジャパン高配当利回り指数」などがあります。
また、日本銀行が量的緩和で購入対象とした、「設備・人材投資に関する指数」も相次いで設定されました。これらは、市場全体の動きに連動することを目指すものではなく、市場を特定の条件によって選別したものです。これらの指数を総称してスマートベータと呼んでいます。スマートベータという言葉自体は最近になって定着してきましたが、こういったタイプの指数はまったく目新しいものではなく、かなり以前から存在していました。
たとえば、市場をグロース・バリューで分類した成長株指数や割安株指数、また、時価総額で分類した大型株指数や中小型株指数などがそれにあたります。最近の特徴としては、投資のニーズが多様化するなかで、次々に新たな指数が開発されている点にあります。そして、指数の動きに連動するファンドが設定されることにより、私たちは様々なタイプに投資ができるようになりました。
プロのテクニックを安価で利用できる!?
このような指数がなかったときは、同じような運用方針を掲げるアクティブファンドに任せるしかなかったのですが、スマートベータの出現によって低コストのインデックスファンドを通じても投資ができるようになったのです。
たとえばROEを重視した銘柄選択に魅力を感じた場合、調査にもとづき、そのような銘柄を選別してくれるアクティブファンドを選んでいましたが、いまではROEなどの企業価値を重視した指数JPX400に連動することを目指すインデックスファンドも選択することができます。
これは、スーパーでよく見かける名店のプロの味を比較的安価で提供する「名店の味」や「行列ができる」シリーズのようなものです。それまでは、安いラーメンを手軽に食べたいときはスーパーの商品で済まし、美味しいこだわりのラーメンを食べたいときは、時間をかけてお店に行き、お店に並んで決して安くはない価格を支払って、本物の味を堪能してきました。それぞれに食べる目的があって、その満足度にみあった費用や時間をかけて食べたものです。
もうおわかりのように、ここで安価なラーメンはインデックスファンドであり、本物の味はアクティブファンドです。「名店の味」や「行列ができる」シリーズとして商品化されることによって、お店で食べる味よりは劣るとしても、それなりに近い味を安価で手軽に食べることができるようになったのです。
スマートベータはまさに「名店の味」シリーズのような存在です。それぞれのスマートベータは一定のルールにもとづいて指数化されているため、運用面におけるきめ細やかさという点では名店にはかないませんが、名店の特徴を持っている指数なのです。投資のニーズは狭まるよりも広がる方向にあるので、今後も新たな指数が開発・提供されていくことでしょう。
市場全体の動きと重複し、リターンに差が出ない場合も
ここで悩ましいのは、スマートベータは従来からある資産を代表する指数よりも、必ずしも良いリターンを得られるとは限らないことです。さきほどから例にあげているROEが高い企業は、一般的に良い企業ではありますが、すでにROEが高い企業がさらにROEを高める保証はないので、そういった企業群による指数が常に良い結果を得ることができるとはいい切れません。
同じく、高配当株式を多く組み入れた指数は、配当による利回りは高いかもしれませんが、対象となる株価が低迷すれば価格の変化も加味したトータルでのリターンは悪いこともあります。株式でも優待銘柄ばかりに投資をすると、優待部分では潤っても、肝心の株価は市場が大きく上昇した際もほとんど動かないこともよくありますよね。このように、魅力ある特徴を切り出したものではあるのですが、単純な方法による指数化では限界もあります。
図表はJPX日経400が公表されて以来の日経平均株価指数、TOPIX、JPX日経400の推移を示したものです。まだ3年程度しか経過していませんが、いまのところ、リターンは市場全体の動きとあまりかわりません。
【図表】日本株式の各種指数の推移
私たちは、市場の発達やITの進展によって、次々と手軽な手法が増え、選択肢は広がっています。しかし、それが従来のものよりも良いリターンに直結するとは限らないのが投資の世界です。
スマートベータを活用することは、市場全体の動きと比べて特定の特徴を選択することになり、それだけ価格が違った動きをする可能性を負うことになりますが、指数のなかには構成銘柄が市場全体と重複する部分が多いことから、リターンに大きな違いが表れないものもあります。こういった特徴を確認したうえで、自分の投資目的や関心事にあわせて納得した範囲で活用するように努めましょう。