眠れる「含み益」を呼び覚ます…経営戦略としての不動産売却
国土交通省『令和5年(2023年)法人土地・建物基本調査』によると、国内法人が所有する土地の資産額は619.0兆円に達し、その大半が長期保有されています。財務省『法人企業統計調査』を見ても、企業の固定資産における土地・建物の比率は依然として高水準です。
長年保有してきた不動産は、帳簿上の簿価と現在の市場価格との間に大きな開きが生じているケースが少なくありません。特に都市部や再開発エリアでは地価が上昇しており、多額の含み益を抱える物件が多数存在します。
一方で、低稼働の工場跡地や旧社屋、採算の合わない物件を漫然と抱え続ければ、資本効率は低下する一方です。中小企業庁『中小企業白書』が指摘するように、環境変化に応じた経営資源の最適配分は、現代の企業にとって最重要課題といえます。
固定資産税や維持管理費がかかる低収益資産を時価で現金化することは、貸借対照表(B/S)をスリム化し、総資産利益率(ROA)を押し上げる有効打となります。得られた資金を本業の研究開発やDX推進、新規事業投資へ振り分ければ、財務基盤を一段と強固にできるでしょう。
借入金に頼らず、社内に眠る含み益を現金化して事業資金へ転換する。この不動産売却は、単なる資金繰りの穴埋めではありません。事業成長を加速させるための能動的な財務戦略です。
風評被害を防ぐ「非公開」の鉄則。通常仲介が抱える落とし穴
保有不動産を売却する際、広く用いられているのが不動産仲介会社への依頼です。
仲介取引では、指定流通機構(レインズ)への登録やポータルサイトへの掲載、チラシ配布を通じて広く買い手を募ります。個人住宅の売買には適した仕組みですが、法人の事業用資産の場合、この「情報公開」そのものが致命的なリスクになりかねません。
市場に物件情報が出回ると、競合他社や取引先、金融機関、従業員に不要な疑念を抱かれます。「資金繰りに行き詰まり、資産を処分しているのではないか」という根拠のない風評が広がるためです。
帝国データバンクなどの企業信用調査機関も、資産売却の動向を信用評価の重要項目として注視しています。公に売り出すこと自体が、信用失墜の引き金になりかねません。万が一風評が立てば、仕入れ先からの支払いサイト短縮要求や、取引銀行による融資姿勢の硬化など、本業の資金繰りに深刻な実害を及ぼします。
実際に、地方で多店舗展開していた飲食チェーンB社は、不採算拠点の整理を目的に保有商業施設を仲介で売り出しました。
ところが、情報がネット上に掲載された直後、地元経済界に「経営悪化による資産切り売り」との噂が一気に広まってしまったのです。結果として主要取引先から取引限度額を引き下げられ、メインバンクからも緊急の状況説明を求められる事態に陥りました。前向きな資産整理であったにもかかわらず、情報露出のコントロールを誤り、企業の信用を損なってしまった典型例です。
法人の資産売却においては、対外的な信用を守り抜くため、検討から決済までを完全非公開で進める配慮が欠かせません。

