「返さなくていいと言われたけれど…」兄が明かした母との約束
母親は80代後半から、買い物や通院に手助けが必要になっていました。信夫さんは週に何度も実家へ通い、食料品を届けたり、病院へ付き添ったりしていたそうです。
「母さんは、お前に迷惑をかけたくないって言っていた。でも、俺一人で全部できたわけじゃないよ。介護サービスも使っていたから」
美佐子さんは、兄が母親の世話をしていることは知っていました。ただ、仕事を辞めたあとも、これほど頻繁に通っていたとは思っていませんでした。
「もっと手伝えばよかった。兄に任せきりだったんですね」
すると信夫さんは、意外なことを言いました。
「それはいいんだ。それより、昔の500万円のことを、ちゃんと話しておきたかった」
信夫さんによると、借りた500万円のうち300万円は返済済みで、残り200万円については、母親から「もう返さなくていい」と言われていたそうです。
ただし、その約束を書面には残していませんでした。
「母さんはそう言ってくれたけど、俺が勝手に決めるわけにはいかないだろう」
美佐子さんは、母親が兄を援助したこと自体を責めるつもりはありませんでした。
「困っていたなら、助けるのは当然だと思います。ただ、私には何も話してくれなかったことが、少し寂しかったんです」
相続では、生前に親から受けた援助が問題になる場合があります。民法には、相続人が受けた一定の生前贈与などを考慮して相続分を計算する「特別受益」の仕組みがあります。ただし、援助が貸付けだったのか贈与だったのか、返済免除があったのかなどによって、法的な扱いは異なります。
また、国税庁『令和6年分 相続税の申告事績の概要』によると、2024年に亡くなった人のうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人は16万6,730人で、課税割合は10.4%でした。相続税の申告が必要かどうかは、財産の総額や相続人の数などによって決まります。
今回、母親の相続人は信夫さんと美佐子さんの2人です。母親には預金4,000万円のほか、実家の土地と建物もありました。
相続税の基礎控除額は、法定相続人が2人の場合、4,200万円です。実家の評価額なども含めて確認する必要があるため、兄妹は税理士に相談することにしました。
「母さんが何を考えていたのか、今となっては聞けません。でも、お金のことはきちんと整理したいと思いました」
兄妹は、母親の通帳や過去の振込記録を確認しながら、遺産の分け方を話し合っています。
美佐子さんは、兄が長年母親を支えてきたことにも、何らかの形で配慮したいと考えているそうです。
「兄も、私に隠したまま相続を進めるのは嫌だったんでしょうね。電話をくれてよかったと思っています」
親が亡くなったあと、生前のお金のやり取りをすべて確認するのは容易ではありません。家族間の援助や貸し借りについては、当事者が元気なうちに記録を残し、必要に応じて家族で情報を共有しておくことが、将来の行き違いを防ぐ助けになるでしょう。
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