「一度くらい一緒に行けばよかった」66歳女性が抱える後悔
ウィーンの街を歩いていたとき、由美子さんは母親が生前に話していたことを思い出しました。
「一度でいいから、ウィーンに行ってみたいわ」
母親は若い頃からクラシック音楽が好きで、テレビでヨーロッパの街並みが映るたび、そんな話をしていたそうです。由美子さんも何度か「いつか一緒に行こうね」と答えていました。
しかし、実際に旅行を計画することはありませんでした。
「母が70代の頃なら、まだ長い距離も歩けたんです。でも、私は仕事が忙しいからって、いつも先延ばしにしていて」
80代になると母親は長時間の移動を負担に感じるようになり、海外旅行の話題も次第に出なくなりました。由美子さんが退職した頃には、母親はすでに外出する機会が少なくなっていたといいます。
「母が残してくれたお金で、私はこんなに自由に旅行している。でも、母自身は行きたかった場所に行けなかったんだなって」
その日、由美子さんはウィーンの街角で、しばらく立ち尽くしてしまったそうです。
帰国後、実家から持ち帰っていた母親のアルバムを開くと、ヨーロッパの風景が載った雑誌の切り抜きが挟まっていました。
「昔、母が『ここに行ってみたい』って見せてくれたものだったんです。すっかり忘れていました」
由美子さんは、旅行を楽しんだこと自体を悔やんでいるわけではありません。
「母のお金を使わなければよかったとは思わないんです。ただ、母が元気だった頃に、一度くらい一緒に旅行しておけばよかったなって」
内閣府『令和8年版高齢社会白書』によると、2024年の65〜69歳のインターネット利用率は87.9%、70〜74歳では75.3%。高齢期にも旅行先の情報を調べたり、家族と予定を共有したりする手段が広がっています。
由美子さんは最近、離れて暮らす娘から「今度、一緒に旅行しない?」と誘われました。以前なら、お互いの都合が合うときでいいと答えていたかもしれません。
「でも、今回はすぐに予定を決めました。行きたいと思ったときに、一緒に行けるとは限らないですから」
次の旅行先は、娘が以前から行きたがっていた北海道です。
「母とは行けなかったけれど、娘とはいろんなところに行きたいですね」
旅行にお金を使うことも、将来に備えて貯蓄を残すことも、それぞれの生活に応じた判断が必要です。そして、家族や大切な人と過ごす時間には、相手の健康状態や生活環境によって限りが生じることもあります。いつか実現したいと思っている計画があるなら、実行できる時期について具体的に話し合っておくことも大切でしょう。
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