(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が老人ホームに入居すると、家族との面会は日々の楽しみの一つになります。好物のお菓子や手料理を持参し、喜んでもらいたいと考える人もいるでしょう。ただ、施設では入居者の健康状態や衛生面を考慮し、飲食物の持ち込みにルールを設けていることがあります。家族にとって当たり前だった習慣が、入居を機に変わることもあるようです。 ※本記事に掲載している事例は、プライバシー保護および情報の一般化のため、実際の相談事例をベースに一部の数値や設定を変更・再構成したモデルケースです。

「これ、お母さんの大好物」娘が持参した手作りのいなり寿司

「母の好物を持っていったのに、渡せないなんて思いませんでした」

 

そう話すのは、58歳の由紀さん(仮名)です。

 

83歳の母・澄子さん(仮名)は、2ヵ月前から介護付き有料老人ホームで暮らしています。

 

澄子さんは長年一人暮らしを続けていましたが、足腰が弱くなり、買い物や入浴に介助が必要になりました。要介護2の認定を受け、在宅サービスを利用していたものの、転倒への不安もあり、本人と家族で相談して入居を決めたといいます。

 

年金は月約14万円。施設の月額費用は介護保険の自己負担分などを含めて約20万円で、不足分は澄子さん自身の預貯金から補っています。

 

「母は最初、家を離れるのを寂しがっていました。だから、できるだけ顔を見せに行こうと思っていたんです」

 

入居後初めての週末、由紀さんは母の好物を持って面会に向かいました。

 

用意したのは、手作りのいなり寿司です。澄子さんは昔からいなり寿司が大好きで、家族の誕生日や運動会には決まって作っていました。

 

「母のいなり寿司は少し甘めで、私も子どもの頃から大好きでした。今度は私が作って持っていこうと思ったんです」

 

由紀さんは母に教わった味付けを思い出しながら、朝から油揚げを煮て、ご飯を詰めました。

 

施設に到着すると、澄子さんは娘の顔を見てうれしそうに笑いました。

 

「今日は何を持ってきてくれたの?」

 

「お母さんの好きないなり寿司。昔よく作ってくれたでしょう?」

 

澄子さんが「懐かしいねえ」と笑ったため、由紀さんは持参した容器を取り出そうとしました。そのとき、近くにいた職員から声をかけられたのです。

 

「申し訳ありません。こちらでは、手作りの食品をお持ち込みいただけない決まりなんです」

 

由紀さんは驚きました。

 

「母が食べるだけでも駄目なんですか?」

 

職員によると、施設では食中毒予防のため、調理から時間がたった手作り食品の提供を認めていないとのことでした。

 

さらに、澄子さんには食べ物を飲み込む力の低下も見られ、食事の形態について職員が確認している段階でした。

 

「入居時にお渡ししたご案内にも記載しているのですが……」

 

そう説明され、由紀さんは言葉に詰まりました。

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