「僕が代わりにやるよ」息子を信じて預けた通帳とカード
「お金の管理は僕に任せて。もう銀行まで行くのも大変だろう?」
そう声をかけられたのは、81歳の俊夫さん(仮名)です。
俊夫さんは郊外の一戸建てで一人暮らしをしています。年金は月約18万円、預貯金は約5,500万円。長年の蓄えがあり、生活費に困ることはありませんでした。
ただ、最近は足腰が弱くなり、銀行へ出向くのが負担になっていました。
「窓口で手続きするのも時間がかかりますし、息子が代わりにやってくれるなら助かると思ったんです」
一人息子の直樹さん(52歳・仮名)は、車で30分ほどの場所に妻と暮らしています。以前から買い物や通院の送迎を手伝っており、俊夫さんにとって頼りになる存在でした。
ある日、直樹さんが通帳や公共料金の引き落としについて尋ねてきました。
「お父さん、口座はいくつあるの? 何かあったときに分からないと困るから、整理しておこうよ」
俊夫さんには、生活費用と貯蓄用の銀行口座がありました。直樹さんは、生活費の引き出しや支払いを自分が手伝うと申し出たのです。
「必要なお金は僕が下ろして届けるから。お父さんは無理して出かけなくていいよ」
俊夫さんはその言葉を信じ、通帳とキャッシュカードを預けました。以前から生活費の引き出しを頼むことがあり、暗証番号も息子に伝えていたといいます。
「親子ですから、疑う気持ちなんてありませんでした」
最初の1ヵ月は、何の問題もありませんでした。直樹さんは頼まれた生活費を届け、公共料金の引き落としについても説明してくれました。
ところが、2ヵ月目から様子が変わります。
「今月の通帳を見せてくれないか」
俊夫さんがそう頼むと、直樹さんは「今度持ってくるよ」と返事をするばかり。次に会ったときも、通帳は持ってきませんでした。
「仕事が忙しいんだろうと思って、それ以上は言いませんでした」
しかし通帳を預けてから3ヵ月後、俊夫さんは銀行から届いた定期預金の満期案内を見て、不安になりました。
息子に残高を尋ねても、はっきりした返事がありません。
俊夫さんは近所に住む弟に付き添ってもらい、銀行の窓口へ向かいました。そこで確認した取引明細には、覚えのない出金が何度も記録されていたのです。
