「これからは好きなだけ旅行できる」定年を楽しみにしていた夫
「退職したら、妻と旅行三昧の生活を送るつもりだったんです」
そう話すのは、60歳の元会社員・哲也さん(仮名)です。
哲也さんは長年会社員として働き、先月、定年退職を迎えました。会社からは再雇用の案内もありましたが、退職金や預貯金を合わせて約4,500万円の金融資産があり、当面は働かずに過ごすことを選んだといいます。
現在は58歳の妻・真理子さん(仮名)と、住宅ローンを完済した一戸建てで暮らしています。
「ずっと仕事が忙しくて、妻には寂しい思いをさせてきました。だから退職したら、今までできなかったことを一緒に楽しもうと思っていたんです」
哲也さんが特に楽しみにしていたのは旅行でした。
現役時代はまとまった休みを取りにくく、夫婦で出かけるのは年に1回程度。退職後は平日の空いている時期を選んで、国内各地を巡るつもりだったそうです。
退職前から旅行雑誌を買い集め、行きたい場所をノートに書き出していました。
「北海道に行って、その次は九州かな。海外にも行きたいね」
そんな話をすると、真理子さんも「いいわね」と答えてくれていたため、夫婦で同じ将来を思い描いていると信じていました。
ところが、退職して1ヵ月ほどたった頃、哲也さんは思いがけない言葉を聞くことになります。
「来月、1週間くらい旅行に行かないか。温泉を巡るのもいいと思うんだけど」
哲也さんがそう誘うと、真理子さんは困ったような表情を浮かべました。
「来月はちょっと無理かな。予定があるの」
「じゃあ、再来月は?」
「そんなに続けて旅行に行くつもりはないわよ」
哲也さんは驚きました。
「仕事も辞めたんだし、これからは時間があるだろう?」
すると真理子さんは、少し考えてからこう答えたそうです。
「時間があるのは、あなたでしょう?」
その言葉に、哲也さんは返す言葉を失いました。
