「自分でできるから」援助を拒む父の台所で見つけたもの
「お前の世話にはならない。まだ自分のことくらいできるんだ」
そう話すのは、76歳の誠一さん(仮名)です。
誠一さんは5年前に妻を亡くし、現在は郊外の一戸建てで一人暮らしをしています。年金は月約17万円。住宅ローンは完済しており、預貯金も約900万円あります。
車で40分ほどの場所に住む48歳の娘・奈緒さん(仮名)は、月に1、2回、実家を訪ねています。
「父は昔から頑固なところがあって、何か手伝おうとすると『余計なことをするな』と言うんです」
妻を亡くした当初、誠一さんは家事に苦労していました。それでも、少しずつ料理を覚え、掃除や洗濯も自分でこなすようになったといいます。
「最近は弁当も売ってるし、何とかなる。心配しなくていい」
電話でもそう繰り返すため、奈緒さんも必要以上に口を出さないようにしていました。
ある日曜日、奈緒さんは父の好きな煮物や焼き魚を作り、実家へ届けることにしました。
「お父さん、おかずを持ってきたよ。冷蔵庫に入れておくね」
玄関から声をかけると、居間にいた誠一さんは「そんなことしなくていいのに」と言いながらも、うれしそうな様子でした。
奈緒さんは持参したおかずをしまおうと台所へ向かいましたが、そこで思わず足を止めました。
流し台には汚れた食器が積み重なり、コンロの周りには食べこぼしの跡が残っています。調理台には、開封したままの菓子パンやカップ麺が置かれていました。
さらに冷蔵庫を開けると、奥には期限を大幅に過ぎた豆腐や総菜が残っていたのです。
「お父さん、これ、いつ買ったの?」
「さあ……。まだ食べられるんじゃないか」
奈緒さんが驚いたのは、冷蔵庫の中だけではありません。
ごみ箱にはコンビニ弁当の容器がいくつも捨てられ、炊飯器はコンセントを抜いたまま。以前は使っていた鍋にも、薄くほこりが積もっていました。
「最近、ちゃんと料理してるの?」
「してるよ。たまにはな」
しかし詳しく聞くと、この数ヵ月はほとんど調理をしていないことが分かりました。
「買い物に行っても、何を作ればいいか考えるのが面倒でな。結局、パンや弁当を買って帰ってくるんだ」
誠一さんは、料理をする気力が以前ほど湧かなくなっていたのです。
