「もっといい家に住めるのに」娘が不思議に思う母の暮らし
「贅沢には興味がありません。今の暮らしで十分なんです」
そう話すのは、72歳の美恵子さん(仮名)です。
美恵子さんが暮らしているのは、郊外にある築40年ほどの分譲団地。約60平方メートルの3DKです。
エレベーターはなく、室内には昔ながらの設備も残っています。それでも美恵子さんは、今の住まいを気に入っているといいます。
「駅までは歩いて10分くらいですし、スーパーも病院も近くにあります。特に不便は感じていません」
美恵子さんは、かつて民間企業の経理部門で働いていました。結婚後も仕事を続け、60歳で定年退職。その後も65歳まで再雇用で働き、現在は月約18万円の年金を受け取っています。
夫は亡くなっており、現在は一人暮らし。団地は夫婦で購入したもので、住宅ローンは完済しています。
驚くのは、その貯蓄額です。
美恵子さんには、現在約4,200万円の金融資産があります。夫婦で積み立ててきた預貯金に加え、自身の退職金の残額や夫から相続した資産などが含まれています。
それでも、日々の生活は質素そのものです。
朝食はご飯と味噌汁、納豆。昼食は前日の残り物を食べることも多く、夕食も自炊が中心です。
衣服は傷んだものを買い替える程度で、ブランド品にも興味がありません。毎月の生活費は、管理費・修繕積立金などの住居費約2万5,000円を含めて、おおむね13万円前後に収まっています。
「年金で十分暮らせますし、今のところ貯金を使う必要がないんです」
そんな母の生活を不思議に思っているのが、45歳の長女・真紀さん(仮名)です。
「お母さん、そんなに貯金があるなら、もっといいマンションに引っ越してもいいんじゃない?」
以前、真紀さんがそう勧めたことがありました。
団地にはエレベーターがなく、階段の上り下りも必要です。真紀さんは、将来のことを考えると心配だといいます。
しかし、美恵子さんは首を横に振りました。
「まだ階段は上れるし、ここには知り合いもいるから。わざわざ引っ越す理由がないのよ」
真紀さんには、母が無理をして節約しているようにも見えました。ところがある日の会話で、美恵子さんがお金を使わない理由を知ることになります。
