「大学生になっても遊びに来てね」入学祝いを渡した春の日
73歳の良子さん(仮名)は、夫を6年前に亡くし、現在は一人暮らしをしています。
年金は月16万円。持ち家で暮らしており、日々の生活に大きな不自由はありません。
良子さんには長男と長女がおり、特に親しくしてきたのが長女の息子、18歳の悠斗さん(仮名)です。
長女一家は車で30分ほどの場所に住んでいます。悠斗さんが小学生のころは、学校が休みになるたびに良子さんの家へ遊びに来ていました。
「一緒にお昼ごはんを作ったり、近所の公園に行ったり。孫が来る日は朝から楽しみでした」
中学生になると訪問の回数は減りましたが、誕生日や年末年始には顔を見せてくれました。高校3年生の冬、悠斗さんが志望大学に合格したと聞いたときは、自分のことのように喜んだそうです。
「受験勉強を頑張っていたのを知っていましたから。本当によかったと思いました」
3月末、長女一家が良子さんの自宅を訪れました。良子さんは悠斗さんに、大学の入学祝いとして現金10万円を手渡しました。
「大学生活にはいろいろお金がかかるでしょう。好きなことに使ってね」
悠斗さんは「ありがとう。大切に使うね」と笑顔で受け取りました。
その日は皆で昼食を囲み、大学で勉強したいことや新しい生活について話したといいます。
帰り際、良子さんは悠斗さんに声をかけました。
「大学生になっても、たまには遊びに来てね」
「うん、また来るよ」
その返事を聞き、良子さんは次に会える日を楽しみにしていました。
ところが4月に大学生活が始まってから、悠斗さんが訪ねてくることはありませんでした。
5月の連休には、長女から「悠斗は友達と出かけるみたい」と連絡がありました。夏休みになれば会えるだろうと思っていましたが、8月も予定が合いません。
9月になり、良子さんはふと気づきました。
「入学祝いを渡してから、一度も会っていないんです」
半年近く顔を見ていないことに、改めて寂しさを感じたそうです。
