ドバイ・アブダビの不動産を相続することになったら?
近年では、経済発展が著しいドバイ・アブダビが投資家の注目を集めており、実際に現地の不動産を購入する人も増えています。しかし、日本の法律と異なる外国に財産を保有していると、万一相続が発生した場合、家族が戸惑うことになりかねません。そのため、海外に財産を持つ人は、家族への情報の共有とともに、相続についてもきちんと考えておくことが重要です。
UAEの場合、「DIFC遺言」という制度があり、外国人投資家にも活用されています(『ドバイ・アブダビでの相続手続き…ビデオ会議で完了できる「DIFC遺言」作成の手順と注意点』参照)。ここでは、ドバイ・アブダビに保有する収益不動産の相続が起きたあと、「DIFC遺言」に沿って家族へ引き継ぐまでの流れを見ていきたいと思います。
配偶者がドバイ・アブダビの収益不動産を相続することになった場合、配偶者が物件を相続・家賃収入を受け取るには、物件の名義変更に加え、賃貸契約や家賃の受取方法なども引き継ぐ必要があります。
相続人である配偶者を支えるのは、次の3者です。
★遺言執行者
★現地の弁護士
★物件を把握している仲介会社
まずは「遺言執行者」と「現地の担当者」に連絡する
相続が起きたら、遺言書で指定した遺言執行者と、遺言の作成を担当した弁護士へ連絡します。DIFC裁判所には、遺言執行者が死亡証明書の写しを添えて連絡します※1、2。
同時に、現地の仲介会社にも連絡し、管理会社や開発会社との調整を依頼します。購入時から物件を把握している会社であれば、契約内容や支払いの履歴を確認しやすく、家族が一から調べる負担を減らせます。
申請では、不動産や預金などの財産の一覧も必要です。登録済みの遺言と、権利証や契約書などの資料をもとに、遺言執行者と弁護士が申請内容を整えます。死亡証明書は、原本または認証された写しの提示が求められます※1。
裁判所の手続を経て、名義変更へ進む
DIFC裁判所では、遺言執行者が遺産を管理・分配するための権限を得るための手続を行います。裁判所がその権限を認めることを「プロベートの付与」といいます※1、2。
必要な情報・書類がそろった単純な案件では、通常数週間でプロベートが付与されると案内されています。これは裁判所の命令が出るまでの目安で、名義変更などがすべて完了するまでの期間とは異なります※2。
プロベートの付与後は、ドバイ裁判所で執行の手続を経て、登記機関や金融機関による名義変更・払戻しなどへ進みます。DIFC裁判所の命令をドバイ裁判所で実行するための、標準的な流れです。アブダビの物件は、現地の登記機関への提出書類や手続も確認して進めます※1、2。
相続が起きたあとに並行して進めること
★現地の法律手続(対応する人:遺言執行者と弁護士)
書類を準備 → 裁判所へ申請 → 名義変更等
★物件の実務(対応する人:相続に詳しい仲介会社と管理会社)
管理費・家賃・残代金を確認し 関係先と調整
★日本の税務(対応する人:税理士)
課税と評価を確認 → 納税資金を準備 → 申告
※ 日本での申告・納税が必要な場合は原則10カ月以内
注:DIFC Courtsと国税庁の公表資料をもとに整理。物件管理・日本の税務は現地手続の完了後に始めるのではなく、必要な対応を並行して確認します。期間や実施先は案件ごとに異なります。
「建設中の物件」と「賃貸中の物件」では、必要な対応が違う!
相続手続の間にも、完成前の物件では残代金の支払日が来ます。賃貸中の物件では、家賃の入金や管理費の支払い、契約の更新などへの対応が必要です。ここで、相続制度を熟知し、物件事情もわかっている仲介会社からの支援が重要になります。
たとえば、建設中の物件を分割払いで購入し、相続手続中に次の支払期限を迎える場合を考えます。
仲介会社は契約書から残代金と支払期限を確認し、開発会社へ連絡します。遺言執行者と弁護士は、その情報をもとに、誰がどの資金を使って支払うかを確認します。支払期限の延期等が必要な場合は、仲介会社が開発会社と交渉します。延期できるかは契約内容や開発会社の対応によりますが、手続きを熟知していれば見通しを伝えられる分、交渉も有利になります。
すでに貸している物件では、管理会社から契約期間、家賃の入金先、未払いの管理費などを確認します。家賃の受取口座や契約名義を変更する際には、遺言執行者・弁護士と連携して必要な手続を進めます。遺言に沿って物件を売却する場合には、仲介会社が価格や売却条件を調べ、売却する権限を得た人(通常は遺言執行者)が最終的に判断します。
相続に詳しい仲介会社の支援は法律上の義務ではありませんが、日本にいる家族が不動産を引き継ぐために欠かせない実務上の備えと言えます。
日本の税務は、現地の手続と並行して進める
日本で相続税の申告・納税が必要な場合、期限は原則として、亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。間に合わない場合には、UAEでの名義変更を待たず、日本の税理士に海外不動産も含めた財産の資料を渡し、評価と申告の準備を進めます※3。
物件を売って納税する場合は、名義変更と売却・決済にかかる期間も見込んでおきます。預金などで納税資金を用意できれば、納税のために売却を急がずに済みます。
相続税を財産そのもので納める物納は、対象が日本国内にある所定の財産に限られます。UAEの不動産をそのまま物納に使うことはできません。また、日本に住所のない相続人が日本で相続税を申告する場合は、税務署との窓口となる納税管理人を定め、届出をします※4、5。
家族に渡しておきたい「5つの情報」とは?
遺言の所在や連絡先に加え、直近の支払い状況など、相続の際に家族から担当者へ引き継ぐ情報をまとめました。
相続に備えて家族と共有する確認表
★財産と書類
物件・預金・会社持分の一覧、所有名義と契約書・権利証の保管場所
★遺言
登録した遺言の所在と担当者、日本の遺言との調整内容
★最初の連絡先
遺言執行者・弁護士・仲介会社、日本の税理士と各担当者の役割
★物件の支払い
管理費・残代金・各支払日(オフプラン物件のペイメントプラン含む)、家賃の入金先口座と契約更新日(Ejarij情報)
★納税の備え
日本の課税と期限の確認先、納税に使える資金の見込み
※ エミネンスラックス作成
相続についての相談先は、購入から何年も後に必要になることがあります。仲介担当者個人の連絡先に加え、仲介会社としての引き継ぎ体制も確かめておきたいところです。対応範囲や費用の概算も、家族が確認できる形で残しておけると過剰な請求などの不当な対応を防止できます。
※一般的な情報提供を目的とする記事です。具体的な取扱いは国籍、宗教、家族構成、居住地、所有形態等で異なります。遺言作成・相続・税務は、担当する専門家に個別にご確認ください。
※1 相続発生後の手続
DIFC Courts Probate(執行者による申請とプロベートの付与、ドバイ裁判所での執行)
DIFC Courts Guide to application(死亡証明書・財産一覧、申請から執行までの流れ)
※2 DIFC遺言の運用
DIFC Courts Wills FAQ(死亡時の連絡、通常数週間との案内、執行の標準手続)
※3 日本の相続税の申告期限
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税(原則10か月以内)
※4 相続税の物納
国税庁 No.4214 相続税の物納(物納財産は日本国内に所在するものに限る)
※5 海外に住む相続人の手続
国税庁 No.4138 相続人が外国に居住しているとき(納税管理人の届出)
森 和孝
Eminence Luxe(ドバイ不動産仲介会社)Founder/CEO
One Asia Lawyers 国際弁護士(UAE法、シンガポール外国法、日本法)

