「貯金はあるけれど…」夫婦が出した結論
その夜、修一さんは妻と話し合いました。和子さんは「娘の力になりたい気持ちはあるけれど、1,000万円は大きいわね」と言いました。
貯蓄3,000万円のうち、1,000万円を渡せば残りは2,000万円です。夫婦は年金月23万円で暮らしていますが、固定資産税や家電の買い替え、旅行などが重なる年は、貯蓄を取り崩しています。
総務省統計局『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月平均の可処分所得が22万1,544円、消費支出が26万3,979円で、毎月4万2,435円の不足となっています。
仮に同程度の不足が続けば、10年間で約509万円を貯蓄から補う計算です。住宅の修繕や医療・介護にかかる費用も考えておかなければなりません。
「今は元気だからいいけれど、80歳を過ぎてからまとまったお金が必要になるかもしれない」
修一さんは、娘の結婚を喜ぶ気持ちと、将来への不安の間で揺れていました。
一方、住宅購入資金の贈与には、一定の条件を満たせば贈与税が非課税になる制度があります。
国税庁『直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税』によると、2026年12月31日までの贈与について、省エネ等住宅なら最大1,000万円、それ以外の住宅なら最大500万円が非課税となります。ただし、住宅や受贈者などの要件を満たし、原則として贈与税の申告を行う必要があります。
修一さん夫婦も制度について調べましたが、税金の負担が軽くなるからといって、無理に援助額を増やす必要はないと考えました。
数日後、娘を呼んで気持ちを伝えます。
「1,000万円は出せない。ただ、結婚のお祝いも兼ねて、300万円なら援助できると思う」
美咲さんは少し驚いた様子でしたが、修一さんが今後の生活費や介護費用について説明すると、「そこまで考えていなかった。ごめんね」と答えました。
「貯金があると聞いていたから、お願いできるかもしれないと思って。でも、お父さんたちのお金だもんね」
娘夫婦は購入する物件や資金計画を改めて検討することに。修一さん夫婦も、援助する場合の贈与税の扱いについて、事前に確認する予定です。
「娘には幸せになってほしい。でも、私たちが無理をして、後から娘に頼るようなことになったら、それこそ困らせてしまいますから」
修一さんは、そう話します。
子どもの結婚や住宅購入を支援する際は、親自身の生活費や将来の支出を見積もったうえで、無理のない金額を決めることが重要です。援助を受ける側も、親の資産状況だけで判断せず、互いの事情を確認しながら話し合うことが求められるでしょう。
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