「使っていない部屋ばかり」ローン完済の自宅を手放すまで
74歳の修一さん(仮名)は、72歳の妻・洋子さん(仮名)と暮らしています。
夫婦の年金収入は合わせて月20万円。貯蓄は約1,200万円で、長年住んできた4LDKの一戸建ては、10年以上前に住宅ローンを完済しました。
「家のローンがないから、年金だけでも何とか暮らしていけると思っていました」
ところが築35年を過ぎた自宅には、少しずつ問題が出てきました。
雨どいの修理や給湯器の交換に費用がかかり、数年前には外壁塗装に約120万円を支払いました。さらに2階にある子ども部屋は、長男と長女が独立してからほとんど使っていません。
「掃除のときだけ2階に上がるような状態でした。使わない部屋にもほこりはたまるんですよね」
庭の草取りも年々大変になりました。以前は修一さんが担当していましたが、腰を痛めてからは業者に頼むことが増え、年間数万円の費用がかかっています。
そんなある日、洋子さんが階段で足を滑らせました。幸い大きなけがはありませんでしたが、修一さんは今後の暮らしに不安を覚えます。
「この先、どちらかが階段を上れなくなったらどうするんだろう」
夫婦で話し合っていると、洋子さんが静かに言いました。
「もう、この広さはいりません。2人で暮らせる家なら、もっと小さくてもいいんじゃない?」
修一さんは最初、家を売ることに抵抗がありました。
子どもたちを育て、家族の思い出が詰まった家です。ローンも完済しているのに、わざわざ家賃を払う生活に戻ることが惜しく感じられました。
しかし、長男から「元気なうちに住み替えたほうが、引っ越しも楽だと思うよ」と言われ、気持ちが変わっていきます。
夫婦は不動産会社に相談し、自宅を売却することにしました。
売却価格は約2,300万円。仲介手数料などを差し引き、手元には約2,200万円が残りました。
新居に選んだのは、駅から徒歩10分ほどの2DK賃貸マンションです。
家賃は管理費込みで月7万円。エレベーターがあり、スーパーや病院にも歩いて行けます。
「持ち家を売って賃貸に移るなんて、昔は考えもしませんでした。でも、これからの生活には便利な場所のほうがいいと思ったんです」
