(※写真はイメージです/PIXTA)

ドル円相場を巡る緊張感が高まっています。これまで円安を支えてきた日米金利差に加え、米国の追加利上げ観測と日銀の追加利上げ観測の交錯、さらに日米の財務当局から「円の過小評価」に対する強い警告が発せられているからです。いまのドル円市場は、単純に「金利差が大きいからドル高・円安」と判断できる局面ではありません。金融政策、経済指標、そして為替政策という三つの力が、相場の方向性を左右し始めています。

交錯する日米の金融政策

まず米国です。FRBは9月に政策金利を3.75〜4.00%へ引き上げました。米国経済は依然として底堅さを示しており、8月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比3.4%上昇と、FRBの2%目標を大きく上回っています。一方、9月の雇用統計では非農業部門雇用者数が2万9,000人増にとどまり、雇用市場の減速感も出始めました。

 

このため、年内の追加利上げを急がず今後の指標を見極めるべきだとの見方が広がっています。ただし、インフレが高止まりすれば年末以降の追加利上げの可能性は残っており、「米利上げ局面が終わった」と決めつけることはできません。

 

一方、日本では日銀が9月の決定会合で政策金利を1.25%へ引き上げました。約30年ぶりの水準であり、日銀内では追加利上げを前倒しすべきとの意見も浮上しています。市場では10月あるいは12月の追加利上げが意識されています。

 

ここで重要なのが、日米の「絶対的な金利差」です。政策金利を比較すると米国は3.75〜4.00%、日本は1.25%です。日銀がさらに0.25%引き上げたとしても、金利差はなお2%ポイント以上残ります。その意味では、日銀の単独利上げだけでドル買い・円売りの流れを完全に反転させるのは容易ではありません。しかし、日米の政策方向が逆回転し始めれば、積み上がった円売りポジションへの巻き戻し圧力は確実に強まります。

日米財務当局が築く「政策の壁」

そして、今回の相場で最も注視すべきが日米財務当局の動向です。

 

9月25日、片山さつき財務相とスコット・ベッセント米財務長官が電話会談を行い、「円の過小評価は問題である」との認識を再確認しました。ベッセント長官も日本の強固なファンダメンタルズを反映した「強い円が望ましい」との意向を示しています。

 

これまで円安への警告は日本側からの「単独の発信」と受け止められがちでした。しかし今回は、米国側も円安を問題視している点が決定的に異なります。ドル円の上昇に対して、日米双方からの「政策の壁」が強く意識され始めたのです。

 

さらに注目すべきは片山財務相の発信手法です。同日の記者会見で「官邸とも相談の上、私から初めて申し上げる」と前置きし、9月22日(日本時間23日)の日米首脳会談においてトランプ大統領が円安への懸念を示し、高市早苗首相が「一般論として円の過小評価は問題だ」と応じたやり取りを開示しました。首脳間の為替に関するやり取りを財務相自らが市場に明かすのは極めて異例であり、明確な円安牽制の意図が伺えます。

 

実際、この情報が伝わるとドル円は一時156円台まで急落しました。片山財務相はメディア露出を急増させ、「政府内で統一が図られている」「高市政権はリフレ派ではない」と繰り返しメッセージを発信しています。協調介入の原則が「生きている」ことを強調し、口先介入の強度を一段と高めています。

今後の見通し:下振れリスクに要警戒

今後のドル円は、当面「上値の重い高値圏での神経質な展開」を想定しますが、中期的には円高への修正リスクがあると見ます。

 

米国経済の底堅さとインフレ懸念がある以上、ドル買い材料は残ります。しかし、FRBの利上げ足踏みと日銀の追加利上げ観測が重なれば、日米金利差は縮小に向かいます。そこに日米財務当局による強い円安牽制が加わるため、安易にドルの上値を追うリスクは大幅に高まりました。

 

特に警戒すべきは、複数のリスク要因が重なる場面です。

 

●米経済指標の悪化によるFRB利上げ観測の後退

●日銀による追加利上げの決定やペース加速の示唆

●日米当局による強固な円安牽制発言、または実弾介入

 

これら3つが同時に発生した場合、これまで積み上がった円売りポジションが一気に解消され、ドル円が想定を超えるスピードで下落する可能性があります。過去の介入事例を踏まえると、口先介入の効果が薄れ始めるタイミングや、実弾介入への警戒が強まる160円近辺など、節目の水準ではポジション管理が重要になります。

 

「円の過小評価」に対する日米双方の警告は、単なる口先介入ではありません。金融政策だけでなく、為替政策そのものがドル円の上値を抑える要因になり始めています。

 

これからの為替相場では、「金利差だけを見て円を売る」という従来の手法は通用しにくくなるでしょう。FRBと日銀の政策動向、米国の経済指標、そして日米財務当局の為替政策。この3つの方向がどちらを向くのかを見極めることが、ドル円の次の大きなトレンドを読む鍵になります。

 

 

斎藤 裕司
SBI FXトレード株式会社
エグゼクティブアドバイザー

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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