(※写真はイメージです/PIXTA)

円安が進行、ドル円相場は162円台と約39年半ぶりの水準に。市場では170円到達の可能性や、政府・日銀による次の為替介入への関心が高まっています。本記事では、6月FOMC後の金融政策の動向、介入資金調達の新たな手段として注目される「FIMAレポ」も踏まえ、今後のドル円相場のシナリオを読み解きます。

ドル円相場、約39年半ぶりとなる歴史的な円安水準へ

ドル円相場は6月末から7月初めにかけて162円台まで上昇し、約39年半ぶりとなる歴史的な円安水準となっています(7月5日現在)。市場の関心は、「次の為替介入はいつ実施されるのか」、そして「介入が行われた場合、どこまで円高が進むのか」という点に集まっています。

 

今回の局面で特徴的なのは、財務省の情報発信姿勢が、4~5月の介入局面と比べて変化していることです。

 

前回の介入前には、「過度な変動には適切に対応する」「投機的な動向を高い緊張感を持って注視する」などその発言を段階的に強め、市場への牽制を繰り返しました。しかし今回は、そのような段階的な口先介入は控えられ、必要なタイミングで実際の行動――いわゆる「実弾介入」――に踏み切ることを意識しているように見受けられます。

 

背景には、前回の経験があるのでしょう。市場では、投機筋が財務省の発言パターンをある程度読み切り、口先介入を利用しながら巧みにポジション調整を進めたとの見方もありました。こうしたことを考慮し、今回はあえてサインを少なくし、介入効果を高めようとしている可能性もあります。

 

4~5月の一連の介入では、一時的に円高方向へ振れたものの、その後ドル円は再び上昇しました。結果として155円近辺が目先の下値として意識されるようになったことから、市場では「政府は大幅な円高ではなく、急激な円安のスピードを抑えることを目的としている」との見方も広がっています。

 

そのため、仮に次回介入が実施された場合、155円を明確に下回る水準まで押し戻せるのかが、一つの焦点となるでしょう。すでに162円台まで水準が切り上がっている中、170円という節目が視野に入る展開となるかどうかも、今後の焦点になります。

米国、次回FOMCでの追加利上げの可能性は消えず

一方、米国では6月のFOMCを受け、FRBの利下げに慎重な姿勢が確認されたことでドル買いが進みました。しかし、その後は原油価格の落ち着きなどを背景にインフレ再燃への警戒感はやや後退しています。

 

さらに、ウォーシュFRB議長は、7月1日にポルトガル・シントラで開催されたECBフォーラムのパネルディスカッションにおいて、「ここ数週間でインフレ期待とインフレリスクが低下している」と発言しました。今年5月22日FRB議長に就任したウォーシュ氏にとって、6月17日のFOMC後の会見以来となる2回目の公の場での発言でした。

 

このウォーシュ議長の発言を受け、ドル買い一辺倒だった流れもやや落ち着きを見せています。ただし、ウォーシュ議長は、同時に「物価水準は依然として高すぎる」との認識を示し、2%目標達成への強いコミットメントも維持しており、7月28~29日に開催される次回FOMCでの追加利上げの可能性が消えたわけではありません。すなわち、政策運営を巡る不確実性は依然として残っていると言えるでしょう。

金融政策のみでの円安抑制は難しく…

ドル円相場を左右する最大の要因は、引き続き日米の金融政策格差です。

 

米国側からは、日本銀行に対し早期の追加利上げを期待する発言が繰り返されています。一方、日本国内では、政府・与党内からは、「景気や財政への影響を踏まえ、追加利上げを急ぐべきではない」との声も聞かれます。もっとも、市場では、日銀の利上げの判断が遅れれば、日米金利差が維持されることとなり、ドル円が170円を試す可能性も十分あるとの見方が出ています。

 

そのような局面では、金融政策だけで円安を抑えることは難しく、再び為替介入によって市場の過度な動きを抑え、時間を稼ぐ必要に迫られる可能性があります。

一時的にドル資金を調達できる「FIMAレポ」の仕組みとは?

ここで注目したいのが、「FIMAレポ(Foreign and International Monetary Authorities Repo Facility)」という制度です。

 

この制度はFRBが2020年3月に創設した各国の中央銀行・通貨当局向けの資金供給制度であり、保有する米国債を担保として、一時的にドル資金を調達できる仕組みです。

 

従来、日本が大規模な円買い・ドル売り介入を行う場合、保有する米国債を売却してドル資金を確保するとの見方が一般的でした。しかし、大量の米国債売却は米国債市場の混乱を招き、ドル金利の急上昇を招くリスクがありました。

 

FIMAレポを活用すれば、米国債を市場で売却することなくドル資金を調達できるため、米国債市場への影響を抑えながら介入を実施できることになります。

 

もちろん、FIMAレポは介入資金を無制限に供給する制度ではありません。また、FRBが日本の為替介入を支援する制度でもありません。しかし、介入原資の調達手段として複数の選択肢が存在することは、市場が認識している以上に重要な意味を持っています。

 

市場では「介入原資には限界がある」とされています。しかし、FIMAレポの存在を踏まえれば、日本政府はこれまでより柔軟な資金調達が可能となっており、市場の想定以上の介入余力があると言えるでしょう。

歴史的円安の帰趨を左右する「最大のポイント」3つ

一方、米国側も、日本の介入に必ずしも否定的とは限りません。

 

トランプ政権は発足以来、「貿易赤字の解消」も目的の一つとして関税政策を推し進めてきました。しかし、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく相互関税については本年2月に最高裁が違法と判断したことから、政権は通商法122条に基づく代替関税を発動するなど、別の法的根拠を活用しながら政策運営を続けています。また、今後の還付手続きや議会対応にはなお不透明感が残ります。

 

そのため、米国としても過度なドル高が輸出競争力を損なう局面では、為替を通じた調整をある程度容認する可能性があります。そうであれば、日本が過度な円安を是正するための為替介入を実施する場合、米国が一定の理解を示す余地は十分あると考えられます。

 

もっとも、為替相場の方向性を最終的に決めるのは金融政策や経済ファンダメンタルズであり、当然のことながら、為替介入だけで長期的なトレンドを変えることはできません。

 

しかし、160円台後半から170円が視野に入るような急激な円安局面では、為替相場の過度な変動を抑える政策手段として、日本政府が再び大規模な介入を実施することは十分考えられます。そして、その際にはFIMAレポという新たな資金調達手段の存在も、これまで以上に注目されることになるでしょう。

 

今後のドル円相場を占う上では、日銀の利上げペース、FRBの政策運営、そして日米当局による政策協調の行方が、歴史的円安の帰趨を左右する最大のポイントになると考えています。
 

 

上田 眞理人
SBI FXトレード株式会社
代表取締役社長

 

※ 本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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