前回は、売却時に大きなマイナス要素を抱える「不整形地」の問題を説明しました。今回は、土地の事業性・収益性が高まる効率の良い「区画分割」について見ていきます。

「敷地面積の最低規模」などのルールに注意

地価の高い都市部では、広めの土地を分割して戸建て住宅地として開発・分譲する例は少なくありません。その土地をそのまま売却したのでは総額が高くなってしまい、その場所で想定される買い手には売却しづらいからです。土地をいくつかに分割し、そこに戸建て住宅を建設して建売住宅として分譲することが、事業性も収益性もともに見込める、その場所に適した売り方ということです。

 

そこで事業性を左右するのは、土地を何区画に分割できるかという点です。前回、例に挙げた間口の狭い土地の場合、二分割すると間口が2mを切ってしまうことから、二分割した上で売却することはできません。これは、建物を建設する場合、土地は前面道路に最低2mは接していなければならない接道条件と呼ばれる制限があるからです。

 

こうした制限はほかにもあります。敷地面積の最低規模です。住居系の用途地域内では、敷地の細分化で日照・通風・防災などに支障を来すのを防ぐ狙いから、敷地面積の最低規模が用途地域とともに定められている場合があります。

 

東京都世田谷区を例に取れば、敷地面積に対する建築面積の割合を示す建ぺい率の制限に連動する形で第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用地域に定められていて、建ぺい率40%の地区では敷地面積の最低規模は100㎡、同50%の地区では80㎡、同60%の地区では70㎡に設定されています。

 

例えば建ぺい率50%の地区にある広さ160㎡の土地であれば二分割して売却することができますが、広さ150㎡の土地であれば二分割すると一区画の広さが75㎡で敷地面積の最低規模を下回ってしまうので、売却することができません。敷地面積の最低規模というルールを導入した時期以降にそこで定められた最低規模を下回ることになった土地には、建物を建設することが認められないからです。

建売分譲を手掛ける不動産会社を「買い手」として想定

第二章(キホン12「マイナス要素になりうるテナントの問題は「定期借家」で解決する」※書籍参照)で紹介した東京都世田谷区内の100坪近い一等地は、この敷地面積の最低規模という制限を受けるなかで売買した例です。建物を賃貸していたことから、立ち退きの問題を抱えていました。それがアダになって、地元で長年にわたって売買仲介を手掛ける会社から本来の価値を大きく下回る額でしか評価されなかった不動産です。

 

そのマイナス要素を考えなければ、坪当たり320万~330万円という相場観です。したがって、総額は3億円以上です。第一種低層住居専用地域という環境良好な戸建て住宅地であるからこそ、不動産の価値はこれだけ高い評価を受けるわけですが、約100坪と規模もあることから、総額で見るとさすがに大きな金額です。事業性・収益性を考えれば、区画をいくつかに分割して戸建て住宅地として売却するのが良さそうです。

 

ここで問題になったのが、敷地面積の最低規模です。この土地の一帯は建ぺい率50%の地区なので、最低規模は80㎡に設定されています。一方、この土地の広さは㎡換算で言えば、約320㎡。したがって、ちょうど4区画に分割できる計算です。これがもし3区画にとどまるなら1区画当たりの販売額が膨らみますから、事業性は4区画の場合に比べて厳しくなってしまいます。4区画まで分割できるのか、3区画にとどまるのか、それだけのことでも、売却のしやすさは大きく異なります。

 

買い手として戸建て住宅の建売分譲を事業として手掛ける不動産会社を想定しましょう。事業者にとっては、この土地が4区画に分割できれば事業性・収益性の点で最も効率がいいと考えらえます。3区画にしか分割できないと、より少ない区画の分譲で事業資金を回収し利益を上げる必要が生じる一方、1区画当たりの販売額がかさむので事業リスクが高まります。したがって4区画に分割できた方が、仕入れにもより大きな金額を投入しやすい、と考えられます。裏を返せば、売り手はその方が、高値売却を実現できるわけです。

 

敷地面積の最低規模が設定されている住宅地は環境良好な低層住宅地です。広めの土地はこの例のようにいくつかの区画に分けて、1区画当たりの額を一定程度に抑えてエンドユーザーに売却するのが一般的です。それだけに、敷地面積の最低規模を確保した上で、どれだけ効率良く区画分割できるかが、事業性を大きく左右します。そしてそれは、売り手の売却価格にも大きく影響するということです。

 

土地の利用にはさまざまな建築規制上のルールが課されます。古くから所有している不動産の場合、それを取得した時点では適用されていなかったルールもあるはずです。例えば東京都世田谷区で敷地面積の最低規模が設定されるようになったのは、2004年6月のこと。それ以前から所有している不動産であれば、新しいルールの適用を自分に関係のあることとして強く認識する機会はそうないかもしれません。所有する土地にいまどのようなルールが課されているのか、改めて確認しておくことが必要です。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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