前回は、所有する不動産の「順法性」の確保が必須である理由について説明しました。今回は、不動産の価値を下げる「マイナス要素」を解消する方法を見ていきます。

改善しておいたほうがいい不動産の耐震性

ここまで不動産の価値を押し下げるさまざまなマイナス要素について触れてきました。高値での売却を目指すなら、それらを解消することが不可欠です。

 

基本的にはまず、順法性の確保を考えるべきです。法令順守、不動産の売買でもそれは大前提と考えていいでしょう。建物に関していえば、それが建設された当時といまとでは法令で定められている事項に違いがあることも考えられます。さすがに、あらゆる点を現行法令の規定に合わせるのには無理があります。

 

だからこそ、既存不適格と呼ばれる、いわば現行法令の規定に見合ってなくても仕方がないという特例扱いの状態が認められているのです。しかし、改善しておいた方がいいものもあります。それは、耐震性です。

 

旧耐震基準と呼ばれる1981年以前の古い基準に基づいて建設された建物はしばらく取り壊すことなく収益用不動産として稼働させ続ける限り、耐震診断を受けた上で必要に応じて耐震改修を実施した方が有利と考えられます。旧耐震基準に基づき建設された建物と新耐震基準に基づき建設された建物の耐震性の差は、例えば阪神・淡路大震災の被災状況からも明らかです。

 

J-REIT と呼ばれる国内の上場不動産投資信託のように投資の適格性を厳しく見るような資金は決して、旧耐震基準に基づき建設された不動産に向かうようなことはありません。少なくとも耐震性は、現行法令の規定に見合う水準にまで高めておく必要があると考えた方がいいでしょう。

「完了検査の検査済証がない」不動産は買い手が減る!?

順法性の欠如に近い問題点として完了検査の検査済証がない不動産のことも、再三にわたって触れてきました。現実にそうした不動産は少なくないはずです。もちろん、その売買段階で金融機関からの融資を受けにくいという点がマイナスになるわけですから、不動産取引の道がまったく断たれてしまうわけではありません。

 

それでも、買い手の範囲は狭まってしまいますから、高値売却の可能性を探る以上、検査済証は本来あってほしい書類です。ただ、完了検査はその名の通り、建設工事が完了した時点でやらないと意味がありません。さすがに建物が完成してから数十年も経過してから完了検査を実施することはないので、必要になったからといって、いま検査済証を発行してもらうことは不可能です。

 

では、どうすればいいのでしょうか。検査済証の発行は不可能ですが、検査済証と同等の意味を持つ調査報告書を作成することでその代役を果たさせるという手段が考えられます。この報告書は「エンジニアリングレポート」と呼ばれます。前回、東京都心に立地するテナントビルの購入を決めるにあたって「デューデリジェンス」と呼ばれる調査を実施したことを紹介しました。その調査報告書の一つが、このエンジニアリングレポートです。投資の適格性を検討している不動産に関して適正な評価を下す材料の一つです。

 

建物調査は、建築設計事務所や建設会社など建築の専門家を抱える民間企業が受託しています。調査項目として、例えばある企業では、①物件の基本的概要に関する事項②順法性に関する事項③現況調査(目視)による劣化等の状況に関する事項④修繕更新費用に関する事項⑤再調達価格に関する事項⑥環境リスクに関する事項⑦地震リスクに関する事項――といった項目を挙げています。

 

こうした不動産に対する詳細な調査によって、その購入資金を金融機関から融通してもらうことが可能になる場合があります。調査費用は100万円単位で掛かる場合もありますが、検査済証がないからと、全てを諦める必要は決してないということです。

 

順法性とは別の角度からよく問題になりがちなのが、建物の賃借人であるテナントです。これこそ、不動産をいざ売却しようという時になって手を打とうとしても、手の打ちようがない問題です。第二章(キホン12「マイナス要素になりうるテナントの問題は『定期借家』で解決する」※書籍参照)で指摘したように、建物賃貸借契約を定期借家の形態に切り替える必要があるので、タイミングを見計らって、できる時にそれをやっていくしかありません。

 

その場合、普通借家との条件の違いに目を向ければ、賃料水準は普通借家の場合に比べて1割程度は抑えざるを得ないのが通例です。目先を考えれば、賃料収入は下がってしまいます。しかし一方で、建物の維持管理と機能更新をしっかりやることなどで賃料水準を引き上げることにも努めれば、トータルで考えて決して損にはならないはずです。

 

そうした努力の積み重ねの結果として、いざ売却しようとするとき、テナントの立ち退きを踏まえて評価を下げざるを得ないということにはならないのが、何よりの得です。幾度か指摘してきたように、ここでも目先の利に惑わされず、損して得取れの発想が求められます。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』から抜粋したものです。その後の法律、税制改正等、最新の内容には対応していない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン

宮﨑 泰彦

幻冬舎メディアコンサルティング

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