「敷地の条件」を前提に具体的なプランを描く
売却しようとしている土地に実際にどの程度の建物を建設できるのか、本当のところは詳細なプランをそこに描いてみないと分からないものです。そこに建物を建設することによって得られる収益にも直結する建物の延べ床面積は、土地の面積とそこに適用される容積率という2つの数字が分かれば、その掛け算という形で計算はできます。しかし必ずしも、正確とはいえません。
土地の面積は測量さえされていれば、問題はありません。それが、土地を実際に購入し、事業に取り掛かる段階になって増えたり減ったりすることは考えられません。しかし、適用される容積率はどうでしょうか。都市計画上、そこに指定されている容積率は分かりますが、その土地に実際にどの程度の規模の建物を建設できるかという点を決める適用容積率はそれとは別のものです。指定されている容積率はその上限を定めているにすぎません。
では、そこに建設できる建物の延べ床面積を算出するにはどうすればいいのでしょうか。それには、その土地の敷地条件を前提に具体のプランを描くほかありません。
すでにご説明してきた通り、前面道路の幅員や隣地との関係などによって容積率は一定の制限を受けます。第一章(キホン7「買い手にとっての不動産の利用価値を最大限に高める」)では、前面道路の幅員が12m未満の場合、適用容積率はその幅員に応じて一定の制限を受けることを説明しました。第二章(キホン16「隣地を取り込むことで不動産の価値を引き上げる②容積率を引き上げる」※書籍参照)では、建築規制上のルールである斜線制限や日影規制によって適用される容積率は抑えられることを説明しました。
容積率が400%と指定されていても、敷地の条件が恵まれていないと、それをまるまる使い切ることはできないのです。そして厄介なことに、こうしたルールによって実際にどの程度、容積率が抑えられることになるのかは、一概にはいえません。敷地の条件によって変わってくるからです。そのため、具体的なプランを描いてみないと、建設できる建物の延べ床面積を見通せないということになるのです。
日影規制等を把握するために「真北の方角」を確かめる
具体的なプランを描く前提として、その土地でまず仮測量を実施する必要が生じます。それによって、真北の方角を確かめるのです。それをやらないことには、日影規制や北側に位置する隣地との関係で課される斜線制限(北側斜線)が具体的にどのように関係してくるのか、把握することができません。プランを描く上で欠かせない重要な前提条件の一つを、この仮測量によってつかんでおくわけです。
買い手にとってみれば、その土地を購入し、そこに建物を建設した場合、どの程度の事業性・収益性が見込めるのかをある程度見越した上で、その土地を購入する、購入しないという判断を下すことになります。ところが、その段階で描いたラフプランと実現可能なプランとの間で延べ床面積が極端に違うようでは検討の意味が薄れてしまいます。
総事業費20億円規模の事業で、延べ床面積の大きさが5%違ってしまっては、事業計画には大きな狂いが生じます。延べ床面積を仮に800坪クラスとしましょう。5%の差といえば、40坪相当です。坪当たりの月額賃料が2万円とすれば、収入見込みには月額で80万円、年額で1000万円近い差が生じるわけです。
売り手としては、具体的なプランを描いて事業性・収益性をしっかり見通している買い手を相手にしたいものです。ぎりぎりの価格交渉が可能だからです。ぎりぎりの価格交渉が可能なら、高値で売却できるチャンスも見込めます。
ところが事業性・収益性を大ざっぱにしか把握していない買い手では、事業リスクを過分に見込むので、ぎりぎりの価格交渉は不可能です。事業リスクを過分に見込んでいるだけに、土地の仕入れ価格を抑えざるを得ないからです。
不動産の高値売却を目指すなら、その不動産を購入し、どのような事業を展開するつもりなのか、具体的に検討している買い手こそ、相手にすべきです。